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アップルの波及効果で「脱炭素」加速、半導体装置メーカーの危機感

アップルの波及効果で「脱炭素」加速、半導体装置メーカーの危機感

東京エレクトロンのクリーンルーム

環境性能、顧客の評価基準に

半導体製造装置業界で脱炭素化の動きが加速している。各社は自社製品の環境性能を高めるほか、事業活動における温室効果ガスの低減に取り組む。世界最大の半導体ユーザーとされる米アップルが取引先に製造工程での再生可能エネルギー100%の使用を推奨している。この波及効果が製造装置業界にも及んでいるようだ。(張谷京子)

「顧客の装置選定では、これまで品質や信頼性など、いかに良いデバイスを作れるかが指標になっていた。2019―20年頃からは、ここに環境性能が加わった」―。東京エレクトロンコーポレート生産本部の福島弘樹副本部長は、半導体業界の意識の変化をこう明かす。

半導体製造で排出される温室効果ガスを低減するには、製造装置の環境負荷低減が不可欠。福島副本部長は「それををおろそかにすれば(選定してもらう上で)土俵にも乗れない」と話す。

こうした脱炭素機運の高まりなどを踏まえ、製造装置メーカーは事業活動における温室効果ガスの低減はもちろん、装置の環境負荷低減にも取り組んでいる。

東京エレクトロンは21年6月に、持続可能なサプライチェーン(供給網)構築に向けたイニシアチブ「E―COMPASS(イーコンパス)」を立ち上げた。約1000社にも上る取引先とともに、環境負荷低減に取り組む方針だ。具体的には、トラックから鉄道輸送へ切り替えたり、梱包(こんぽう)材使用量を減らしたりすることで、調達物流の二酸化炭素(CO2)を削減する。加えて、環境有害物質フリーの装置の提供、プロアクティブな装置環境技術開発も行う。

同社は30年に向け、装置稼働によるウエハー1枚当たりのCO2排出量を18年比で30%削減する。各事業所では再生可能エネの使用により、CO2総排出量を同70%削減させる計画だ。ただ福島副本部長は「年々高まっている世の中の環境意識に追従していかないといけない」と認識。さらなる目標の上方修正も視野に入れる。

ディスコは50年までに、製品の使用を含めて供給網全体でカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現を目指す。関家一馬社長は「これまでコスト重視の顧客が多かったが、今後は環境性能も評価につながっていくはず。多少高くても省エネ化が進んだ装置の方が評価されるかもしれない」とみる。

ディスコの茅野工場(長野県茅野市)太陽光パネルの増設を進めている

自社の事業活動では、30年までにカーボンニュートラルを実現する目標を掲げる。生産単位当たりの電力・水の消費量を半減するほか、太陽光パネルの増設で自社発電を拡大。2月には、太陽光発電能力を従来比でほぼ倍増の約3200キロワットに高める。

半導体試験装置(テスター)大手のアドバンテストは4月に、主力工場の群馬工場(群馬県邑楽町)で使用する全ての電力を再生可能エネ由来の電力に切り替えた。群馬工場での切り替え電力量は年間約1280万キロワット時で、CO2排出量を年間約5000トン削減できる見込みだ。30年には再生可能エネ導入率を70%以上に引き上げ、事業活動における温室効果ガスを18年比で60%削減する目標を掲げる。

米アップルの取り組み波及 供給網全体「温室ガスゼロ」

こうした装置メーカーの環境対策の背景にあるのが、アップルなどの半導体ユーザーが進める供給網全体を巻き込んだ環境対応の動きだ。

世界最大の半導体ユーザーとして知られるアップルは、20年7月、30年までに自社製品の生産や利用を含むサプライチェーン全体で「カーボンニュートラル」を達成する目標を打ち出した。同社に納める製品や部材の生産に使う電力を全て再生可能エネでまかなうと表明したサプライヤーは175社に到達。半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)などの半導体メーカーも賛同している。同社は25年までに温暖化効果ガスの排出量の伸びをゼロにする計画。米インテルは30年までに再生可能エネ100%の使用に切り替える。

半導体メーカーが温室効果ガスの削減に取り組む理由は、半導体ユーザーの要請に応えるためだけではない。半導体生産に使う電気や水などの消費エネルギーの拡大も背景にある。

半導体市場は、第5世代通信(5G)の普及やIoT(モノのインターネット)の進展により中長期で拡大が見込まれている上、微細化や積層化などの技術革新も著しい。より高度な製造技術を用いるとその分消費エネルギーも増える傾向にあるため、消費エネルギー低減は半導体メーカーにとって喫緊の課題だ。「このままの成長率でいけば、世の中の電力の20%は半導体で使われることになる」(業界関係者)とも言われている。

こうした半導体メーカーの危機感の高まりに対し、アドバンテストの吉田芳明社長は「経済性とサステナビリティー(持続可能性)をどう両立させていくか。痛みを伴う活動が待っているはずだ。努力をして地球の環境維持に貢献したい」と応える。

今や「社会・生活のコメ」とも言われる半導体。持続可能な社会の実現に向け、半導体供給網の環境対応は必須と言えるだろう。

日刊工業新聞2022年1月6日

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