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【ディープテックを追え】光源に革新。用途広がるナノの世界に照準

#41 フォトエレクトロンソウル

電子や陽子などの粒子を光の速度近くまで加速して高エネルギー状態を作り出す加速器。宇宙の根源に迫ったり、たんぱく質の立体構造を解き明かしたりするために利用される。大型放射光施設(SPring-8)に代表される大型の加速器には、電子ビームを照射する巨大な電子銃が搭載されている。

この大型高出力の電子銃を小型化し、産業界への応用を目指すのが名古屋大学発ベンチャーのフォトエレクトロンソウル(名古屋市中区)だ。光源を“半世紀ぶり”に革新し、半導体検査装置や電子顕微鏡、表面加工への展開を狙う。

微細化する半導体

電子銃から照射する電子ビームはナノ(ナノは10億分の1)レベルの加工や検査にはなくてはならない。特に微細化が進む半導体に関しては重要度が高まっている。同社が応用先に目を付けたのは半導体のシリコンウエハーの欠陥を検査するプロセスだ。

鈴木社長

半導体製造の前工程では、成膜や露光を行うシリコンウエハーに異常がないか検査する工程がある。ゴミなどに起因して発生するため、発生箇所がランダムだ。フォトエレクトロンソウルの鈴木孝征社長は「現在主流の電界放出(FE)型では、検査のトータル時間が16時間ほどかかっている」と指摘する。

電子銃の問題点を解消

電子銃の標準的な方式である、熱電子放出型とFE型には弱点がある。試料に照射するプローブ電流と光源サイズのトレードオフが生じる点だ。熱電子放出型では電流を大きくすることができるが、光源サイズが大きい。FE型はその逆で、電流は小さくなるが、光源サイズをナノレベルまで小さくでき、高分解能の解析が可能になる。50年以上前に生まれたFE型は、熱電子放出型よりも光源サイズの小さい電子ビームを照射できる革新を起こしたが、それでも捉えることのできる微細世界の限界や、時間的なコストの課題が起こっていた。

同社の電子銃

同社は「半導体フォトカソード」という方式の電子銃を用いることで、微細な検査の効率化を実現しようとしている。半導体フォトカソードは高エネルギーの加速器を使い、素粒子や原子核の性質や振る舞いを観察する際に用いられてきた。宇宙誕生の瞬間である「ビッグバン」に近い状態を作りだすため、高出力で大型だったことが応用面での課題だった。これを同社は従来の6分の1まで小型化することに成功した。

また、電子ビームを発生させる内部の半導体の劣化が早い点も問題視されていた。そこで、加速器の半導体の素材を窒化ガリウム(GaN)系にすることで劣化を抑え、連続使用時間を大幅に高めた。

同社の電子銃の技術動画(同社HPより)

電子顕微鏡や金属加工の応用も目指す

さらにパルス光やマルチ電子ビームなど多様な電子ビームを出せるようになった。これにより半導体の検査にかかっていた時間を大幅に削減した。試料に照射される電流量を示すプローブ電流がFE方式に比べ、10倍以上高いため、照射時間だけなら単純計算で10分の1にできる。すでに2020年には半導体検査装置の部品に採用されており、年間10台ほどの量産も開始している。

今後見据えるのは、電子顕微鏡の分野だ。従来では動きのある物体を捉えることが難しかった。だが電子銃から出すパルス光を応用することで、連続的に物体を捉えることを目指す。電池材料の金属表面における動きの観察や医薬品などで活用できるとにらむ。さらには3Dプリンターをはじめとした金属加工などの分野も視野に入れる。鈴木社長は「光源にイノベーションを起こせば、全ての産業で変化が起きる」と力を込める。半世紀ぶりの革新の波を波及させていく。

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ニュースイッチオリジナル
小林健人
小林健人 KobayashiKento 第一産業部 記者
普段生活していると馴染みがない電子銃ですが、たんぱく質構造を解き明かすのに使われたりと、恩恵を受けています。記事内に記した半導体に関しては、今後さらなる微細化が進むでしょう。同社の技術が歩留まりや生産性の向上に繋がることを期待したいです。余談ですが、加速器は日本に2度のノーベル賞をもたらした「ニュートリノ」研究にも使われます。産業界の縁の下の力持ちです。

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