ニュースイッチ

【ディープテックを追え】「ダヴィンチ」の独壇場に東工大発スタートアップが挑む

#42 リバーフィールド

米インテュイティブ・サージカルの「ダヴィンチ」の独壇場だった手術支援ロボットに変化が起きてきた。特許切れに伴い、日本勢もダヴィンチの牙城を崩そうと参入している。東京工業大学発スタートアップのリバーフィールド(東京都新宿区)は機能や価格面で差別化し、商機を見いだそうとしている。

低コストを実現

開発する手術支援ロボット

リバーフィールドは患者の体に複数の穴を開け、器具を挿入する腹腔(ふくくう)鏡手術を支援するロボットを開発する。市場の先駆者のダヴィンチよりも小型・軽量かつ低コストを強みに訴求する。

低コストを実現するカギは空気圧による駆動方式にある。モーターで駆動するダヴィンチの最上位機種が2億円以上かかるのに対し、リバーフィールドは7千万円から8千万円ほどで導入できるという。また、ダヴィンチが4本のロボットアームで構成されているのに対し、同社では価格を抑えるためアームを3本にした。ダヴィンチの2台目としての運用や、地方の中小病院を主なターゲットに据える。

力覚フィードバックの原理

「力覚フィードバック」という感触を伝える機能もつける。ロボットアームの先端に力が加わると、内部のシリンダの圧力が変化する。この変化を圧力センサーで捉え、ロボットの手先の力加減を推定する。医師の手元で臓器に触れる感覚を再現し、力加減の微調整に役立てる。これにより、相当な訓練や経験が必要だったロボット手術のハードルを下げられるとしている。只野耕太郎社長は「精密な動作を空気圧駆動で実現するため、部品の組み合わせなどの研究成果が詰まっている」と話す。医師が一定期間ロボット操作のトレーニングを積めば、すぐさま手術ができるように設計するという。

ロボット操作のイメージ

柔らかい臓器向けの手術をターゲットに

一方で空気圧駆動はモーター駆動に比べて、つかむ力が弱いという弱点を抱える。ダヴィンチの主戦場、前立腺手術では分が悪い。そこで同社が開拓するのは、肺など柔らかい臓器での活用だ。只野社長は「ダヴィンチの利用はほとんどが前立腺手術だ。柔らかい臓器でのロボット活用を普及できれば、まだ導入が進んでいない手術にも市場を広げていける」と自信を口にする。

只野社長
内視鏡ホルダーロボット「EMARO」(エマロ)

9月には約30億円を第三者割当増資で調達した。開発するロボットの医療機器申請や量産化のために使う。株主でもある東レエンジニアリング(東京都中央区)と協力し、2023年1月の販売を目指す。また、現状リリースしている内視鏡ホルダーロボット「EMARO」(エマロ)の次世代機や眼科用のロボットも開発中だ。そのほか複数の手術支援ロボットを開発している。調達した資金を使い、販売までのスピードを上げる。将来はユニット部品などを内製化し、さらなる価格低減も図る。海外への展開も視野に入れる。

患者にとってロボット手術は、体への負荷が小さいとされる。これまでは実質的に“ダヴィンチの独壇場”で、高コストかつ医師の高スキルが必要な点がボトルネックだったが、今後は選択肢が広がりそうだ。例えば、川崎重工業とシスメックスが共同出資するメディカロイド(神戸市中央区)や、国立がん研究センター発スタートアップのエートラクション(千葉県柏市)なども研究開発を進める。競争激化も予想されるが、それだけ成長余地があるとも言える。普及には製品開発に加え、医師へのトレーニングの充実もカギを握りそうだ。

〈関連記事〉これまでの【ディープテックを追え】
ニュースイッチオリジナル
小林健人
小林健人 KobayashiKento 経済部 記者
国内勢以外にも手術支援ロボットの参入は増えています。手術範囲を広げることと価格やサポートの部分も重要かと思います。ダヴィンチは市場の先駆者としてノウハウがあります。対応できる病院や医師が増えることは、一人の患者としても期待したいです。

特集・連載情報

ディープテックを追え VOL.6
ディープテックを追え VOL.6
宇宙船を開発する米スペースX、バイオベンチャーのユーグレナ-。いずれも科学的発見や技術革新を通じて社会問題の解決につなげようとする企業で、こうした取り組みはディープテックと呼ばれる。日本でディープテックに挑戦する企業を追った。

編集部のおすすめ