途上国で商機生むダイキン、ブラジルの省エネ基準改正をどう導いたのか
脱炭素、商機確実につかむ
ダイキン工業はブラジルの省エネルギー基準を改正に導き、同国で自社製品の優位性をアピールする環境を整えた。温室効果ガス排出量の削減に向けた機運が世界的に高まっており、日本企業には脱炭素に貢献する技術や製品を海外へ売り込むチャンスが広がっている。商機を確実につかむためにビジネス戦略も問われており、途上国の省エネ基準づくりへの貢献も好例となる。
ブラジル政府は2020年7月、空調機器の省エネ基準を改正した。それまでは10年以上前の基準が運用されており、ダイキン工業CSR・地球環境センターの小山師真担当課長によると「ブラジルで流通する家庭用エアコンの9割は(省エネ性能最上位の)Aランク」という状況。同社が現地生産する製品は、省エネ性能を発揮するインバーター搭載機種なので価格も高い。もちろんAランクだが、性能が劣る低価格の他社製品もAランクであるため、ダイキンは市場で差別化できずにいた。
そこで同社は17年、基準改正の活動を始めた。まず訪ねたのが現地サンタカタリナ連邦大学の教授。その教授は、同社が有識者を集めて開催した空調問題の懇話会に参加した経験があり、エネルギー事情に危機感を持っていた。ブラジルはエネルギー需要が増大する中で家庭用エアコンが普及しており、旧基準を放置すると電力需要の増加に拍車がかかる恐れがあった。
教授は他の大学にも声を掛け、ダイキン製エアコンの性能を実証し、6割の省エネ性能を確認した。他にも米国の研究機関や非政府組織(NGO)とも連携し、政府に基準改正を働きかけた。
ダイキンは教授とともに政府にも出向いた。国際協力機構(JICA)の研修制度に参加した職員がいて日本の技術力に理解があり、会談は円滑だった。同社はJICAの民間連携事業の採択も受け、基準改正活動を推進。日本とブラジル両政府の会合でも話題にあげてもらった。「我々だけでブラジル政府関係者に会えない。日本政府やJICAの力を実感した」(小山担当課長)と語る。
政府の規制当局も積極的に動き、基準改正が実現した。23年に新基準が適用され、26年には基準値が引き上げられる。ダイキン製品は26年でもAランクに入る。同社グローバル戦略本部営業企画部の降籏英明部長は「環境性能で先行していることが明確になった」と差別化に手応えを語る。小山担当課長は「自分たちだけで基準改正はできない。国や大学、NGOなどと共通の目的を持って連携した成果」と語る。
日本企業は優れた製品がありながらも、海外市場で欧米企業に先行されるため「技術で勝って、ビジネスで負けた」と言われる。欧米企業の勝因の一つに、自社が有利となる規制や商業ルールづくりがある。省エネ基準の策定・改正は国内に豊富な知見があり、日本の官民が連携しながら途上国の温暖化対策に貢献し、ルールづくりに関与できる。
31日に始める国連の気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で日本政府は企業45件の技術を発信する。脱炭素市場の獲得へ向け、日本企業が有利となる土俵づくりも期待される。