三菱電機が開発、工場技能者の可視化システムを実現した日本初の存在
人手で機器を組み立てる作業は、技能のバラつきが共通の課題だ。そこで三菱電機は、得意とする映像監視技術と計算の簡易な人工知能(AI)を組み合わせ、作業時間の自動計測システムを開発した。コミュニケーション・ネットワーク製作所の郡山工場(福島県郡山市)に導入し改善に試すと、作業効率は10%以上向上した。顧客へも導入の提案を始めており、技能の平準化や向上に役立つ新たな改善手法として提供し、支援する。
三菱電機が開発したのはカメラで動画撮影した技能者の作業時間を項目ごとに計測し、AIで分析もするシステム。技能者が部品を取り、組み立て箇所に定置し、ネジで締め、次の工程に送るといった項目ごとに測る。
技能者の動きを平面の映像上の点だけでとらえられる。優れた技能者の作業を最低10パターン撮影し、それを基に模範の「学習モデル」をAIで作成する。改善対象とする技能者の映像と学習モデルを比べ、長く時間をかけている項目や不適切な動きなどを容易に突き止められ、的確に改善指導できる。
システムの基盤には三菱電機が1955年に日本初の監視カメラを手がけ、蓄えてきた高精度で簡易な撮影や画像処理の技術がある。それとAIを組み合わせ、わずかな撮影回数で学習モデルを築ける。通信システムエンジニアリングセンターセキュリティシステム部の上田昌治次長は「多くの情報処理が必要な方法に比べ学習量を10分の1に減らせる」と説明する。映像のAI学習は通常、数千回必要とされ、作業時間もストップウオッチで測ると、大変な手間と時間がかかる。
実際に20年10月、郡山製作所で組み立てる無線通信機器にシステムを導入した。技能者は40人以上で、主に熟練者の作業を撮影・分析し新人の改善に適用すると、作業効率が10%以上高まった。映像セキュリティーシステム部の辻亮宏部長は「新人が作業のどこで時間がかかるのか分かる。組み立て時間を短縮でき、半年間で数百万円の改善効果を得られた」と効果を実感している。
三菱電機は同月にシステムの作業分析ソフトウエアを「骨紋(こつもん)」として発売し、自動車関連会社などに試験的に納めた。「作業の問題点が分かった」「作業を短縮できた」という半面、「学習モデルをうまく作れない」との声もある。そこで映像を提供してもらい分析するサポートも検討する。「カメラとAIは切っても切れない関係になる」(辻部長)と相乗効果で価値創出を目指す。(大阪・田井茂)
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