「ROE10%」達成急ぐ王子HD、カギ握る成長戦略
製紙最大手の王子ホールディングス(HD)は海外のパルプ、段ボール事業の成長を見据え、M&A(合併・買収)や設備投資を進めている。大型案件は一巡したようだが、今後脱炭素を含む投資を継続しつつ、安定したキャッシュフロー(CF)を創出できる好循環を維持することが課題だ。
同社は海外事業を拡充し、国内製紙事業の構造転換でコスト削減を徹底するなどし、2018年度には悲願だった連結営業利益1000億円を達成。14年度は8048億円だった連結純有利子負債残高も20年度は5114億円にまで削減するなど財務基盤を強化してきた。
その上での海外成長戦略で、約10年前に10%以下だった海外売上高比率は現状約30%。足元3年間では戦略投資枠3000億円を設定し、ブラジルでパルプを扱うセニブラの株式取得、東南アジア中心の段ボール関連の設備投資などを進める。
そのために必要な営業CFは4900億円とし、19、20年度にはそれぞれ1240億円超を生み出した。ただコロナ禍の影響で設備増強や収益面の貢献が遅れる案件もあり、海外比率が目標の40%に届くかは微妙だ。
資本効率を測る自己資本利益率(ROE)は20年度が6・9%。各社で実情は異なるものの、競合は国内比率が高い日本製紙が0・8%、段ボールが主力のレンゴーが9・7%、家庭部門に強い大王製紙が10・1%だった。王子HDは21年度、過去最高の9・1%を見込んでおり「(現状は)満足いく水準ではない。ともかく目標の10%に近づけたい」(幹部)と強調。SMBC日興証券の佐藤有シニアアナリストは「注力する海外市場の開拓は、中期的にROEの上昇につながる成長投資である」と評価しており、海外での成長が目標達成のカギを握る。
成長性と安全性の指標「ネットD/Eレシオ」の21年度予想は0・7倍。過去数年間もその前後で推移しており、業界内では健全度が安定している。磯野裕之取締役は「市場の成長に応じた体制の整備に必要な投資を滞らせてはならない」とし、そのためにも資本効率を高めつつ積極投資を続けていく。