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Co2“使いこなす”。2050年達成へ「カーボンニュートラル」への秘策とは?

Co2“使いこなす”。2050年達成へ「カーボンニュートラル」への秘策とは?

トヨタがスバルと共同開発したSUVタイプのEV「bZ4X」のコンセプト車両

政府が2050年の達成を宣言して以降、「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)」の議論が活発になっている。主に二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量、除去量を差し引きして全体でゼロにする概念だ。化石資源からの脱却を目指す「脱炭素化」だけでなく、発生したCO2を回収して再利用や貯留する手法もポイントとなる。実現に向けた技術動向や主要業界の取り組みを追った。(名古屋・政年佐貴恵、編集委員・板崎英士)

エネルギー変革 電力の「脱炭素化」優先

カーボンニュートラルの対象は温室効果ガスで、メタンや一部の窒素酸化物なども含まれる。ただ、日本の排出量の9割をCO2が占めるため、その削減が議論の中心だ。CO2排出に大きく関与するのが、これまで化石資源を中心としてきたエネルギー製造やその利用、関連設備や配送網などのインフラといった部分。このエネルギーシステムの変革が焦点となっている。

実現には大きく三つの要素がある。元々のCO2排出を減らす「省エネルギー化」と、炭素由来の資源を使わない「脱炭素」、発生したCO2を回収利用(CCU)する「炭素循環」だ。科学技術振興機構研究開発戦略センターの尾山宏次フェローは「まずは電力の脱炭素化が第一優先だ」と言う。脱炭素エネルギー源とされる水素やアンモニアなどの製造や、CCUにも電力は必要となるからだ。

そこで政府は再生可能エネルギーの利用拡大を打ち出した。太陽光発電や風力発電の設置拡大を念頭に置いている。また、国が有力な脱炭素エネルギー源の一つと位置付ける水素は、水を電気分解する方法や、メタンなどを水蒸気と反応する方法などで作る。国内での製造プラント設置のほか、豪州などから安価な水素を調達する方法が検討される。欧州や米国でも水素活用の動きは加速している。

水素活用、CCUで燃料 課題はコスト

CCUの代表例は、CO2と水素を反応させて作る合成燃料だ。技術は確立しつつあるが、尾山フェローは「現状の方法では一部エネルギーをムダにしている。電気化学的に反応工程を効率化する手法を検討する必要があるのではないか」と提案する。実用化に向けては発展途上で「CCU技術はいろいろな所にも展開できる。技術を売れれば日本にとっても非常に有効な成長戦略になる」という。

このほか、元々、化石燃料として地中にあった炭素源を再び埋めて封じ込めるCO2の回収貯留技術や、森林吸収などでCO2を削減する「ネガティブエミッション」技術もある。尾山フェローは「電力の脱炭素化を前提として、その上で発生したCO2を活用するCCUと、ネガティブエミッションの三つを組み合わせなければカーボンニュートラルは達成できない」と見る。

実現の上での最大の課題はコストだ。エネルギーコストの低減に加え、例えばCCUではメタンのように既存インフラを活用できる燃料を作ることも必要だ。尾山フェローは「日本は個別の技術や戦略を考えるのは得意だが、これらと制度を組み合わせるなど全体戦略を描くのが苦手だ」と指摘。「トップダウンとボトムアップの両面をつなげることが重要だ」と訴える。

自動車 電動化車両の投入加速

自動車業界で最大のトピックは、CO2排出の少ない電動化車両の投入加速だ。トヨタ自動車がハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)を含む電動車の販売を30年に20年度比3・7倍の800万台にするほか、ホンダは40年の新車販売を全てEVと燃料電池車(FCV)に切り替える方針。日産自動車も30年代早期に主要市場の新型車を全て電動車にすることを掲げる。

各社は製造時のCO2排出ゼロにも取り組む。トヨタは35年に全工場のCO2排出ゼロを目指す。省エネ塗装といった生産技術革新や再生エネ利用の拡大などを実施。日産は50年までの製造時CO2排出ゼロを掲げ、30年の排出量を19年比で約4割削減する。工場の全電力を再生エネに切り替えるほか、低排出の塗装ラインの導入などで積み上げる。

またデンソーがCO2を循環利用する実証試験を始めたほか、豊田自動織機は欧州の産業車両事業で再生エネ利用率を100%にするなど、トヨタ系大手部品メーカーを中心に取り組みが加速。カーボンニュートラルの専門組織を作る動きも相次いでいる。

エネルギー 「CO2フリー水素」道半ば

エネルギー業界のCO2の直接排出割合は4割を占める。各社は太陽光発電など再生エネの増強や火力発電の低炭素化に取り組んでいる。最終目標は製造時にCO2を排出しない「CO2フリー水素」へのエネルギー転換だが、道のりは遠い。

経済産業省は第6次エネルギー基本計画案を公表し、30年時の電源構成比でCO2を出さない再生エネを36―38%に拡大、原子力は20―22%で据え置いた。国土面積あたりの太陽光発電量はすでに世界一となっている。今後再生エネの利活用を増やすには洋上風力発電の開発が不可欠であり、ノウハウ豊富な海外メーカーとの取り組みが目立つ。

ただ、発電量が自然条件に左右される再生エネを拡大するほど、安定供給のために火力が重要になる。火力発電の低炭素化は喫緊の課題だ。電力各社はアンモニアや水素の混焼、石炭のガス化による低炭素化に注力する。

さらにCO2の貯留・回収や、CO2とCO2フリーのグリーン水素を原料とする合成メタンや合成燃料などの新エネルギーの実用化にも挑戦している。

JERAがアンモニア混焼の実証を進めている碧南火力発電所(愛知県碧南市)

化学 CO2資源化に商機

化学大手各社にとってカーボンニュートラル実現に向けた世界の動きは事業構造を促す変化点となる。CO2を化学品原料などの資源に変える技術革新を実現し、成長事業にできるか―。リスクとチャンスを内包する。

各社は社会のカーボンニュートラル達成に貢献する多彩な技術開発を推進。CO2を化学品などに変えるために必要な水素の製造技術に、旭化成と三菱ケミカルホールディングスが取り組む。旭化成は水電解システム、三菱ケミカルは光触媒を使った人工光合成を研究している。

プラスチックゴミの再利用も、焼却処分によるCO2排出の削減につながる。積水化学工業はプラゴミをガス化し、微生物の力でエタノールに変換する技術を持つ。住友化学は積水化学と共同でエタノールを使った汎用プラの生産を目指す。

三菱ケミカルは、水を光で水素と酸素に分解する人工光合成などの取り組みを加速(NEDO提供)

化学業界のカーボンニュートラルは、CO2の資源化やリサイクル、バイオマス利用などから場面に応じて最適な技術をいかに選択できるかがカギ。現在の一方通行の資源利用から炭素資源が循環する社会に変わることが理想だ。

日刊工業新聞2021年8月6日

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