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【ディープテックを追え】空間センシングで「人間とデジタルの均衡点」を見出す

#18 ピクシーダストテクノロジーズ

「デジタルネイチャー」という言葉をご存じだろうか。目の前の物が自然物なのか、人工物なのか、見分けがつかない状態のことを言い、近い将来、この状態が普遍的になるとされる。この大胆な概念を提唱するのが、メディアアーティストとしても有名な落合陽一氏だ。筑波大学准教授でもあり、自身の研究成果を社会実装するため創業したのがピクシーダストテクノロジーズ(東京都千代田区)。目指すのは、「人間とデジタルの均衡点」を見出すことだ。その取り組みを聞いた。

空間をセンシング

ピクシーダストテクノロジーズが得意とするのは現実空間をデジタル化し、最適なインターフェイスを使い、フィードバックすることだ。例えば、製造現場の状況をセンサーでデータ収集し、それらを分析しリアルタイムに視覚情報に重ね合わせることで、生産状況や人員配置を人目で把握できるようにする。これを実現するのが、画像やセンサーなどを用い、データの取得から分析、シミュレーションまでを一括で提供するソリューション「KOTOWARI(コトワリ)」だ。コトワリをベースにシステムを構築することで、前述のようなデジタル化を実現する。

コトワリの仕組み。様々なデータを集め、処理しアプリケーションに反映する

鹿島と協業

コトワリを使った一例が鹿島と共同開発した「鹿島ミラードコンストラクション(KMC)」だ。KMCではカメラやセンサーで取得した画像データを、3次元で設計図をつくるシステム「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」と重ね合わせ表示。施工工事がどの程度進捗しているか容易に把握できる。リアルタイムで表示する映像に、工事の進行状況が分かる機能も搭載した。ピクシーダストテクノロジーズの村上泰一郎最高執行責任者(COO)は「建設現場では人の動きが多く、デジタルで把握できていない部分が多かった」とした上で、「我々が目指す、『空間をDX』するという理念に適した環境だ」と話す。他の建設業向けに展開することを見据えつつ、物流や不動産など、動的な環境への応用を検討する。

専用ビューワでKMCデータを閲覧できる

これ以外にも、メタマテリアルという自然界にはない性質を備えた吸音材「iwasemi(イワセミ)」や、センサーを使って電動車いすを自動運転車いすに変える「xMove(クロスムーブ)」など、様々な技術を開発・実装している。一見、ばらばらに見える製品も「全ては(情報を取得する)センシングと(それを現実世界に表現する)インターフェイス技術の集合体」(村上COO)だ。

直近でも、大日本住友製薬と難聴者のコミュニケーションを解決する「スマートグラス」の共同研究契約を締結するなど、領域は多岐にわたる。

吸音材「イワセミ」

今後は「製品化を推し進めるフェーズ」

数多くの知的財産を連続的に社会実装できるのは、大学との知財戦略に特徴があるためだ。通常、企業と大学の共同研究で開発した知財は様々な契約が発生し、製品化し社会実装するまでに時間を要する。一方、同社は筑波大学、東北大学と連携して共同研究の知財を100%保有する代わりに、大学には同社の新株予約権を付与する仕組みを構築した。この仕組みを使うことで、大学の研究成果を即座に製品化し、社会実装につなげつつ、大学側には株式による利益を確実に提供することが可能になった。

村上COO

2021年は「製品化を推し進めるフェーズ」と位置づけており、それに合わせて現在の60人規模の人員を増員し、2年間でウェブエンジニアを中心に100名ほどまで拡大させる方針だ。

ピクシーダストテクノロジーズの最終的な形について、村上COOは「最終的にはコングロマリット企業としての形になる」と話す。将来は様々な技術の組み合わせによって、人間とデジタルの「最適な均衡点」を見いだす意向だ。

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ニュースイッチオリジナル
小林健人
小林健人 KobayashiKento 第一産業部 記者
コロナ禍もあり、DXという言葉が爆発的に広まりました。ただ、現実で起きていることをデジタルで表現するだけでは「デジタル化」にしかなりません。DXの本来的な意味は「デジタルを使い、事業を変革する」ことです。デジタルは万能ではなく、いかに現実に違和感なく取り込めるかを意識する必要があるように感じます。

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