苦境に直面する割り箸の産地「吉野」。SDGsで打開できるか
割り箸「産地」として知られる奈良県吉野地方の生産者らが苦境に直面している。新型コロナウイルス禍で飲食店が休業し、割り箸の需要が激減したためだ。業界団体は販路拡大につなげようと、魅力を伝える動画作成などに取り組んでいる。
割り箸の生産者らでつくる「吉野製箸工業協同組合」などによると、同地方では酒だるを作る際の端材を有効活用しようと、江戸時代後期から明治時代初期ごろ割り箸生産が始まったとされる。
安価な輸入品と異なり、同地方の割り箸は良質なスギやヒノキの端材を使うのが特長。香りや丁寧な作りが好評で、料亭や旅館からの引き合いも多い。
しかし、新型コロナ感染拡大に伴う飲食店の休業などで割り箸の需要は激減。県によると、同地方の三つの生産者組合の2020年の出荷量は、19年比約4割減の約9127万膳まで落ち込んだ。
割り箸を生産する吉野町の男性は「生産ペースを従来の半分に落とした」と話す。取引があった問屋の約半数からは注文が途絶え、倉庫には割り箸が入った段ボールが山積みされている。老舗問屋「内原商店」(下市町)を経営する内原弘嗣さんは「『飲食店に客を入れるな』となると売れるわけがない」と嘆く。
こうした状況を打開しようと、内原さんが理事長を務める問屋の団体は、スギが伐採されてから箸に加工され、飲食店で客の手に渡るまでの過程を描いた動画を作成した。2月からユーチューブで公開し、輸入品にはない「吉野産」の魅力を広めたい考えだ。
吉野製箸工業協同組合は、地元の学校給食用に割り箸を提供し、地場産業への理解を深めてもらう試みを続ける。割り箸には使い捨てのイメージもあるが、端材を捨てずに有効活用する点を強調し、持続可能な開発目標(SDGs)に配慮した商品としてアピールするという。同組合理事長の上垣公俊さんは「吉野の割り箸は日本の食文化の一つ。間伐材や端材を利用し、資源を有効活用する産業だと知ってほしい」と訴える。