普及する「ナンバーレス」。クレジットカードの券面に及ぶデジタル化と脱炭素化の潮流
産業界の潮流であるデジタル化と脱炭素化がクレジットカードの券面にも及んでいる。番号などを記載せず、スマートフォンで確認する「ナンバーレスカード」が大手の新カードとして普及しつつある。券面に廃棄プラスチック素材を使用し、環境負荷を抑えられるカードを発行する会社も登場した。カード券面には各社の戦略が凝縮されている。(戸村智幸)
セキュリティー強化、アプリに表示機能
日本初のナンバーレスカードは、クレディセゾンが2020年11月、主力の2種類のカードで発行を始めた。カード表面に氏名は記載するが、番号や有効期限、セキュリティーコードは、スマホの会員用アプリケーション(応用ソフト)で確認する。利用明細を表示する会員用アプリの機能を強化し、ナンバーレスを実現した。
ナンバーレスカードの長所は、セキュリティーの高さだ。店舗での決済の時、店員に番号などを盗み見されて覚えられ、不正利用される恐れがない。
スマホのアプリでは番号などを表示する時、本人が登録した4ケタのパスコードの入力が必須だ。本人以外がスマホを操作し、番号などを不正取得することへの対策だ。
アプリで表示する利点もある。インターネット通販で初めて買い物をする時は、番号などを入力する。アプリで番号などをコピーアンドペーストすれば簡単だ。
これらが若年層に評価されてか、ナンバーレスカードの会員は20―30代が約6割を占める。クレディセゾンのカード会員全体では、3月末時点で20―30代は22%と若年層の多さが際立つ。
三井住友カードも2月、主力カードの最新版として、ナンバーレスカードの発行を始めた。6月までの5カ月間で50万枚超を発行している。具体的な比較は非開示だが、「従来カード対比で好調に推移している」(広報室)という。
同社のカードは表面は何も記載せず、氏名は裏面にある。こちらもスマホの会員用アプリで、番号などを確認する。不正取得対策は、携帯電話番号を入力し、スマホに送られてくるパスコードを入力する仕組みだ。
即時発行、利用増やす
ナンバーレスカードには、カード会社側にも利点がある。即時発行により、カードの積極的な利用を促せる。通常は審査などの発行手続き完了後、カードを郵送し、会員は受け取った後に利用を始める。ナンバーレスカードではそれを待たず、即時発行後に番号をスマホアプリで確認しネット通販に利用できる。「iD」や「QUICPay」などのスマホ決済に番号を登録すれば、店舗でも利用可能。両社はともに最短5分で番号を発行できる即時性を打ち出す。
クレディセゾンでは、ナンバーレスカードの発行当月の利用が、通常のカードの3倍。同社は「若年層のすぐに利用したいニーズに応えられている」(広報室)と指摘する。
進む環境対応、銀行業界も採用
カード券面への廃棄プラスチック素材採用は、丸井グループのカード事業会社のエポスカード(東京都中野区)が先陣を切った。4月に一部の提携カードで切り替えを始め、10月以降は主力カードでも順次切り替える。
ポリ塩化ビニール(PVC)の廃材・中間材を回収して使用することで、1枚当たり最大約9・8グラムの二酸化炭素(CO2)排出削減につながる。今後5年間で発行する全てのカードを切り替えた場合、最大約90トンのCO2排出を削減できるという。
丸井グループは50年までの長期ビジョンの中で、グリーン・ビジネスへの注力を宣言し、環境負荷低減に取り組んでいる。エポスカードでも、主力カードのデザイン刷新を計画する中で、サステナブルな素材を使用して環境負荷を軽減できると考え、廃棄プラスチック素材採用を決めた。
主力カードは4月、番号などを裏面に記載する縦型の新デザインに刷新した。10月以降新素材に切り替えることで、「会員の皆さまとともに、持続可能な社会・地球環境の実現を目指す」(丸井グループ広報室)。
他社でも同様の動きが出てきた。イオン銀行は22年5月から、キャッシュカード、クレジットカード、電子マネーを1枚に集約した主力カードの素材を廃棄プラスチック素材に順次切り替える。
PVCの廃材・中間材を回収して使用し、1枚当たりCO2排出を最大8・3グラム削減。年間約140万枚を新素材で発行すると想定し、5年間で約58・1トンのCO2排出削減を見込む。
キャッシュカードでの廃棄プラスチック素材の採用は、銀行業界初という。現金自動預払機(ATM)で利用する耐久性が十分あるかを今後確認する。
イオン銀行が所属するイオンは、20年9月にプラスチック利用方針を定め、使い捨てプラスチックの使用量を18年比半減する目標を掲げる。
丸井グループと同様、流通大手の脱炭素化の目標を受け、グループのカード会社が具体的に取り組む動きと言える。