ニュースイッチ

「ウッドショック」鎮静化も価格は高止まり。輸入依存の日本に必要な視点

「ウッドショック」鎮静化も価格は高止まり。輸入依存の日本に必要な視点

ウッドショックは沈静化へ…(米国の林業=ウェアーハウザー・ジャパン提供)

国産切り替えも課題多く

住宅用木材価格が記録的な上昇をみせていた米国市場は、5月末をピークに価格が下落した。“ウッドショック”は沈静化の傾向が見られる。一方、日本への輸入価格は高止まりが続く可能性があり、影響は国産材にも及んできた。各国のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への取り組みによる世界的な木材需要の増加も見込まれ、輸入材に頼る日本も調達のあり方を見直す必要がある。(成田麻珠)

米国製下落傾向も…、日本向け高値・品薄続く

2020年夏ごろから始まり、世界に影響を及ぼしてきた米国木材(カナダを含む)価格の高騰は5月をピークに下落傾向。米業界紙のランダム・レングスによる針葉樹製材総合価格では、5月第3週の1514ドル(前年同月比3倍以上)をピークに、現在は例年並みの価格で推移している。カナダの木材を取り扱うT&Hフォレストインダストリーズの谷貝東彦(やがい・はるひこ)社長は「あまりにも高くなりすぎていたうえに、米国やカナダでの住宅建築用のOSB(下地材)もそろわず住宅が建てられないため、買い控えが起きた」とみる。マーケットの高まりに対し、丸太価格も上昇していたという。米国の旺盛な住宅需要は値上がりの一因だったが、それに合わせて入った木材先物取引への投機マネーが、天井を迎えて流出したとの見方もある。

米商務省発表の6月の米住宅着工件数(季節調整済み、年率換算)は前月比6・3%増の約164万戸で市場予想を上回ったが、先行指標となる住宅建設許可件数は約160万件と減少傾向で弱含み。

ただし6月末にカナダ国内で発生した大規模な山火事による輸送の停滞や、カナダ林産業大手のキャンフォー(ブリティッシュコロンビア州バンクーバー)が減産方針を明らかにするなど先行きは不透明で「価格が再上昇する可能性はある」(谷貝社長)という。

もともと日本の輸入木材は欧州材が主流だ。物林(東京都江東区)の淡中(たんなか)克己社長は、米国市場での価格上昇と品薄を受けて「欧州では10―11月に丸太の仕入れや製品の販売など次年度の方針を決めるが、昨年は価格が上がっていた米国向けの販売に注力した企業が多かった」と分析する。従来は日本向けだった木材が値段の良い米国に向かい、日本での価格上昇と品不足を招いた格好だ。

では米国の木材価格の下落は日本市場での価格下落に結びつくかというと、日本向けの木材は今後も木材の高値・品薄を懸念する声が多い。淡中社長は「米国での価格が急落しても、欧州での虫害による丸太不足や、日米市場における丸太の長さの違いから、すぐ日本向けにシフトできない」とし、日本市場の木材不足が解消に向かうかについては疑問符をつける。

国産材値上がり 杉中丸太、上昇の一途

日本の住宅用木材は価格高騰と品不足が続いている(イメージ)

農林水産省の木材流通統計調査(木材価格)によれば、国産杉の中丸太価格は20年6月以降上昇の一途をたどっている。21年7月には前年同月比約5割高の1万7800円、杉の製材価格(乾燥材)も7月に同約9割高の12万6700円をつけ、近年まれにみる高値となった。現在の国産材の値上がりは、輸入木材の価格高騰と数量不足を代替する需要として生じている。

木材問屋の長谷川萬治商店(東京都江東区)の殿山清誠木材事業本部東京事業部長は「これから入ってくる第3四半期(7―9月期)分の輸入材は最も高値かつ少ない量で契約している」と説明。価格は下がる環境にはないとの見方が支配的だ。

米材については8月第3週以降、第4四半期(10―12月期)の日本向け製品価格が定まるが、こちらもかつての価格まで下がるとみる関係者は少ない。年内の国内入荷分は高値で契約が確定していることからも、国産材は引き続き高値での取引となる見通しだ。

利活用促進 全国知事会が提言、林業の発展後押し

「国産木材を活用することで、持続可能な林業による『自給自足』を促したい」と小池知事(10日=東京都庁)

現状は輸入材の代替需要が多い国産材だが、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標達成やカーボンニュートラルの実現に向けて利活用を促す機運が出てきた。全国知事会の「国産木材活用プロジェクトチーム」でリーダーを務める東京都の小池百合子知事は10日、野上浩太郎農林水産相とオンラインで会談し、「国産木材の需要拡大に向けた提言」を提示した。

全国知事会は18年に同プロジェクトチームを発足し、翌年「国産木材需要拡大宣言」を決定。地球温暖化防止やカーボンニュートラルの実現に向けて、全国各地で新たな国産木材の需要創出や情報発信、民間非住宅建築物や公共建築物の木造・木質化を推進してきた。

小池知事は「国産材の需要創出が目的の我々にとって、今は絶好のチャンスだ」として、活動の事例紹介や木材活用の支援拡充について提言した。野上農水相は「6月に『木材利用促進法』を改正し、『森林・林業基本計画』も閣議決定した。提言を踏まえて、持続可能な林業発展のための施策推進に努めたい」と応えた。

市況化する木材 木材活用、世界で拡大

国産木材も需要が高まっている(神奈川県秦野市)

木材活用の取り組みは世界に広がっている。閉幕したばかりの東京五輪の競技会場や選手村では国産木材を多用したが、この流れは24年開催の仏パリ大会にも引き継がれる。現地では五輪・パラリンピック用施設の木材建設および開発促進を目的とした「France Bois2024」が設立され、自国の木材を活用した五輪を目指すという。

6月にはエッフェル塔隣接のシャンドマルス公園内に、現在改装中の展示場「グラン・パレ」の代替施設が木造で建設された。同施設は柔道の競技会場となり、終了後の解体を見越している。

これまで市場規模に対して木造一戸建ての需要が少なかった中国も、木材活用の動きを強めている。林業・材木業大手の日本法人ウェアーハウザー・ジャパンの関一治米材製品部本部長は「近年ではCO2排出量削減の一環として、木造の非住宅建築に関心を持ち始めている」と分析。今では世界の針葉樹丸太輸入量の44%(19年、林野庁調べ)を占める木材輸入大国となった。18年には日本の建築基準法にあたる「木構造設計規範」が改定され、日本産の杉やヒノキ、カラマツが木造建築物の構造材として利用できるようになり、中国でのさらなる木材消費が予想される。

カーボンニュートラルの流れの中でこうした動きが世界各国に波及するのは確実で「木材価格は市況化し、原油価格のようになってきた」(関本部長)。輸入材に頼る日本は長期的な視点での対応を検討する必要がある。

日刊工業新聞2021年8月16日

編集部のおすすめ