研究成果を多く社会に出したい九州産業大、「知財活用」戦略のすべて
九州産業大学は、学術研究推進機構に置く産学連携支援室が大学の研究成果に基づく知的財産の展開を担当する。知財を生かした製品開発など“事業化の主役は企業”との考えから、知財活用と産学連携を一体的にみる。かつては特許などの権利化だけで知財に関する取り組みを終えていた面もあった。だが現在は「研究成果を一つでも多く社会に出したい」(永井浩一室長)と事業化を積極的に後押しする。(西部・関広樹)
実例通じ学ぶ
九州産業大では、教職員が知財に関する最新情報などを学ぶことのできる取り組みを実施している。知財についての要望や意見を直接聞く機会にもつなげて、関連する活動に生かしている。
2020年2月に開いた研修会のテーマは「大学知財のイノベーション概論〜知財パラダイムシフトの発想〜」。知財登録協会(SIR)会長兼理事長の玉井誠一郎氏が講師を務めた。知財の現状や特許出願での注意点について実例を通じて学び、法令順守の重要性や大学における権利化の意義の理解を深めた。会場は満席で、どのように権利を守っていくかについての関心が高いことも示した。
同大では知財の活用を前提にした産学連携の試みが広がりつつあるという。例えば研究成果を権利化し、キーとなるノウハウを生かして共同研究を呼びかけるといった具合だ。
権利化や知財活用に不慣れな中小企業との共同研究契約では、共同研究に対する企業側の姿勢に刺激を与えることを重視する。例えば特許使用料の話になると、企業は売り上げを強く意識した新たな事業計画を策定する場合もあり、「知財が関連する事業を長期的に考えるきっかけにもなる」(永井室長)。
オープンイノベーションセンターでは起業に関して知財を含むさまざまな相談に応じる
相談に応じ助言
知財を生かした起業を増やすことも目標の一つだ。その拠点がキャンパス内に置く「オープンイノベーションセンター」。学生や卒業生、研究者の起業を支援しており、知財に関する相談にも応じ、助言する。必要に応じて弁理士とつなげる。
知財の活用事例の一つとして期待されるのが、有機酸の一種で農作物の生育を促す効果を持つフルボ酸の事業化だ。木材を微生物で分解する方法で、従来より短期間で低コスト、安定的に生産できる技術を保有している。
産学連携は教育の機会にもなり、共同開発には学生をできるだけ参加させている。企業によっては知財を守るために学生から念書を取る場合もあり、学生は知財に触れる現場にいることを実感する。
最近は参加交流型サイト(SNS)で写真を含めて見聞きしたものを簡単に公開できる。「珍しいものは投稿したくなるが、『共同研究でできました』などと気軽にSNSに出さないように」(同)学生を指導する。
芸術系の学部でも作品の著作権や意匠権、商標権について教えており、知財についての意識を広く深く浸透させようとしている。さらに今後は大学としての知財に対する新たなポリシーを示すことも検討している。