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「ワーケーション」が自治体によるアイデア合戦の主戦場に。あの手この手の誘致施策の行方は。

「ワーケーション」が自治体によるアイデア合戦の主戦場に。あの手この手の誘致施策の行方は。

子育て世代や妊婦の悩みを解消するためオンラインで相談可能な環境を整えた(鹿児島県錦江町提供)

テレワークの定着とともに、レジャーとの融合による新たな働き方として「ワーケーション」への注目が高まってきた。各自治体が地域活性化の新たな起爆剤としてアイデア合戦を繰り広げる一方、移住者や関係人口拡大などに向けた試行錯誤が続く。コロナ禍で働き方や生活をめぐる価値観が変化し、東京一極集中是正の声も高まる中、一過性にとどまらず都市から地方へ向かう人の流れを定着できるか。各地の取り組みに焦点を当てた。(高田圭介、京都・大原佑美子、西部・三苫能徳)

【沖縄県】産業振興のきっかけに

御菓子御殿恩納店のワーケーション施設から望むオーシャンビュー(御菓子御殿提供)

マリンスポーツや亜熱帯の自然などの魅力を有する沖縄。官民協働によるワーケーション施設整備が進む。内閣府沖縄総合事務局はワーケーション施設の設置を促進する補助制度を展開。21年度は35件を採択し、2次公募を実施中だ。

制度を活用し、新業態に進出した企業もある。菓子メーカーの御菓子御殿(沖縄県読谷村)は恩納村の直営店にワーキングスペースを設ける。屈指のリゾートである村内には、ホテルや商工会による施設が面的に広がりつつある。担当者は「完成後は村内施設を利用できるよう連携を進める」と構想を語る。

シェアオフィスなどを全国展開する、いいオフィス(東京都台東区)は自社初のワーケーション施設を豊見城市に開設予定。休暇も満喫できるサービス提供や、行政と連携した起業家のマッチングイベントなど産業振興の象徴的拠点にする。

【高知県】モデルプラン売り込みで企業誘致

高知県は、地元ならではの食文化を体験できる(かつおのわら焼き作り)

高知県は自然や食などの資源を生かした県ならではのワーケーション確立に向け、県内9エリアでモデルプランを作成した。4月30日に特設サイトでプランを公開。県と包括連携協定を結ぶ大手企業など39社にモデルプランを提案した。

県の柏田太郎地域観光課チーフは「観光だけで終わらせず、交流人口の増加や2拠点居住の地として高知を選んでいただく一助になれば」と意気込む。

県外参加者の延べ宿泊数が20泊以上の企業研修などを対象に、最大20万円を助成する施策も始めた。モデルプランを通じて移住につながったケースはまだないが、「本年度はプランを売っていくフェーズ。事例を作り水平展開したい」(柏田チーフ)と鼻息は荒い。

【青森市】産官学連携でファン拡大へ

青森市浅虫温泉の古民家を改装したワーケーション施設でリモートワークをする利用者(青森市提供)

青森市は移住支援の一環としてワーケーション施策に取り組む。行政機関が集まる県庁所在地は、訪れた人が魅力の発信役となる「青森ファンの拡大」に狙いを定めた。

 

活動は青森公立大学や青森商工会議所との産官学連携で設立した「青森リモートワーク人材誘致研究会」を中心に、互いの知見を持ち寄りながら展開している。「充実した都市基盤と適度な田舎感」(青森市担当者)を強みに、市内中心部にあるコワーキング施設だけでなく郊外の浅虫温泉にある古民家を改装した施設や体験プログラムの充実で他自治体との差別化を図る。

背景には就学、就職期を迎える18―23歳を中心に続く人口流出への危機感がある。各地で人口維持に頭を悩ませる中、県庁所在地として比較的恵まれた環境にある青森市も例外ではない。人口減少や高齢化に直面し、地域産業が根本的に浮揚するきっかけを見つけ出すこと難しくなり、都市基盤の維持が切実な課題として忍び寄る。

補助金による移住支援だけでは手詰まりとなりつつある状況に対し、ワーケーション施策を通じて新たな糸口を見い出したい思いもある。市民の理解を得ながら限りある自治体としての独自財源を有効活用する意味で、地元住民でも気づかない魅力を訪れた人が掘り起こし、住民の郷土への愛着や定住意識を高める材料として期待をかける。

これまでテレワークとの親和性が高いIT関連企業やフリーランスを中心に利用が進んできた。7月には企業を対象とするモデル実証にも乗り出し、21年度は約50人の利用を目指す。今後はクリエーターやクラフト作家など情報発信力を持つ人々へのアプローチも強め、移住やUターンの地盤を固めるためファンづくりによって自治体の個性を高めていく。

【鹿児島県錦江町】町全体を実証フィールドに

住民のアイデアから生まれた遠隔授業の「寺子屋」(鹿児島県錦江町提供)

鹿児島県錦江町は廃校を活用した施設を拠点に、町全体を実証フィールドとして展開している。訪れる企業がリモートワークを目的に利用する一方、自治体側も地域課題を明確にするため町民に直接問う場を設けた。

17年に実施したふるさと納税の使い道を募るコンテストには、医療体制の充実を求める声が出た。過疎化が進む約7000人の自治体は、小児科や産婦人科の受診に車で約40分かかる隣の鹿屋市まで足を運ぶ切実な実情があった。

要望を基に18年にはKidsPublic(東京都千代田区)と共同でオンラインによる健康相談の実証に乗り出し、妊婦や子育て世代の悩みに医師が応じる環境が実現した。法律の壁もあってオンラインで診療はできないが、相談窓口ができたことで住民満足度を高めている。

子育てに関する住民のアイデアは別の動きにもつながった。町には民間の学習塾がなく、学びの場を求める声も出ていた。企業を誘致するには時間もコストもかかる状況に対し、タブレット端末を使う遠隔授業の「寺子屋」が解決へと導いた。当初は夏休みや冬休みの期間に実証として進めていたが、徐々に軌道に乗って現在は事業化に至っている。

都市部で当たり前のようにある施設やサービスが満足に利用できない。地域格差によって諦めてきた課題が、地域から人が離れる要因の一つとも考えられてきた。情報通信技術の発達はそんな地理的制約を少しずつ解消させようとしている。

地域課題解決を目的とした町民発信のアイデアは企業と融合し、実を結び始めてきた。錦江町担当者は「全国のモデルとなる取り組みを広げたい」と今後に期待を寄せる。

【京都府舞鶴市】後継者問題解決の糸口に

コワーケーションビレッジMAIZURU。起業家や地元経営者、学生などが利用する

京都府舞鶴市は、65歳以上の人口割合が32・2%(3月末現在)と高齢化が進み、深刻な跡継ぎ問題を抱える。そんな中ワーケーションで交流人口を増やし移住などにつなげたいと、農業体験や歴史的建造物での学びを軸にしたワーケーション誘致を民間と協力し進めている。その中核となるのがワーケーション支援の市の施設「コワーケーションビレッジMAIZURU」だ。市はシンク・アンド・アクト(京都市下京区)の作間宏介さんに運営を委託した。

作間さんは施設運営を担いつつ、地域課題解決のため複数の活動に参加。このほど任意団体「京都移住計画」の依頼で1泊2日のワーケーションツアーを企画・実施した。移住や定住を研究する大学教授や建築士らが、農業体験や地元住民との交流、高台から入り江の絶景を望むカフェでのワーク体験を通じ、“ならでは”の過ごし方を堪能。外部の風を呼び込んでいる。

後継者問題などを自治体単独で解決するのは難しい。作間さんは企業や他自治体との連携など、民間として自由に動ける利点を生かし「舞鶴の窓口になりたい」と話す。同施設の利用者が市内でIT企業を創業したほか、大手製造業などのサテライトオフィス誘致にも成功。実績を重ねている。

“密”回避で都市離れもテレワーク化まだまだ

政府が想定するワーケーションの実施形態(観光庁資料より)

政府も「新しい日常」や多様な働き方を広げる観点から、ワーケーション推進に動きだしている。観光庁は企業と地域を対象にしたモデル事業を展開し、環境省も国立・国定公園や温泉地を対象にした推進事業を進める。

都市圏の企業に所属したまま地方で働く「地方創生テレワーク(転職なき移住)」のかけ声も広がりつつある。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局は7月、経済団体や人材関連会社などと連携協定を結んだ。今後に向け、情報共有や啓発活動などを通じて産業界への浸透を図る。

コロナ禍で認知度を高めたワーケーションだが、相次ぐ緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に伴う外出自粛や移動制限に伴って各地の施策に水を差す形となっている。クロス・マーケティングと山梨大学が共同で3月に公表した調査では、テレワークを実施した人のうちワーケーション経験者は6・6%にとどまる。

企業側としても労務管理やマネジメントの観点がネックとなり、導入が広がらない実情もある。各自治体の取り組みが移住や企業誘致など具体的な形となって実を結ぶには、観光目的による目先の需要に捕らわれない中長期的視点の工夫や環境整備が求められそうだ。

日刊工業新聞2021年8月9日掲載記事に加筆

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