【音声解説】「パソナ×淡路島」本社機能一部移転から1年。現地はどうなった?
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17回目は「『パソナ×淡路島』本社機能一部移転から1年の現在地」について大阪支社神戸総局の園尾記者が解説します。紹介した記事と合わせて音声配信をお楽しみください。
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パソナグループが兵庫県淡路島への本社機能の一部移転を打ちだしてから1年近く。コロナ禍で東京への一極集中が見直される中、従来の働き方に大きな一石を投じた。同社は以前から観光業をはじめとした島内の経済活性化に取り組んできたが、新事業の展開も視野に入れる。淡路島を舞台とした地方創生策が注目されている。(神戸・園尾雅之)
風光明媚の職場 気分切り替え仕事
「今日はどこにいる?直接会って打ち合わせしたいんだけど」。社員同士が会議をする際は、まずはこんな電話から始まる。相手がいるのは数キロメートル離れた海岸沿いのオフィス。社用車を走らせ合流し、きれいな海を眺めながら会議が始まる―。
社員が主に働く拠点は、兵庫県淡路市の複合文化リゾート施設「淡路夢舞台」の一角。かつての飲食店テナントを改装したオフィスだ。市内には同様に既存施設を改装したオフィスが複数存在する。各業務ごとに拠点は定められているものの、社員は比較的自由に拠点を行き来し、気分を切り替えながら仕事ができる。主力事業である人材派遣の雇用契約書の作成管理、給与計算などの経理、人事総務など、多くの業務が淡路島で動く。
パソナグループが本社機能の一部移転を発表したのは、2020年秋。それから21年春までの間に、約120人の社員(新入社員を除く)が新たに淡路島へ移ってきた。現在は、緊急事態宣言の影響で希望社員の受け付けを停止したが、約1800人が携わる本社業務のうち、約1200人分の業務を24年5月までに移転する当初計画は変わらない。むしろ新事業の展開やUターン人材の獲得などで、規模はさらに拡大する可能性もある。
4月には、働きながら休暇を取る「ワーケーション」の場を島外の企業に提供する拠点を新設した。今秋の本格的な事業開始に向けて準備が進む。さらに7月には新たにオフィス物件を賃貸契約し、上場企業を対象にしたコーポレートガバナンス(企業統治)関連の教育事業も検討する。
リゾート開発で人集める 「観光+α」カギ
パソナグループが淡路島と深く関わるようになったのは08年。独立就農を支援する事業がきっかけだった。その後、淡路島北西岸の「西浦地区」で廃校となった旧野島小学校を改装した複合観光施設「のじまスコーラ」のオープンを皮切りに、同地区のリゾート開発に力を入れ始めた。
18年には淡路夢舞台の空きテナントをオフィス化し、島内の観光施設運営関連の業務を担ってきた。その後は既存施設などを借り受けるなどして、オフィスを確保。それでも受け皿としては不十分なため、現在は新社屋の建設も計画中で、機能移転のスピードをさらに加速する方針だ。
もっとも、現時点で淡路島の主要産業は観光業と農林水産業だ。パソナグループは兵庫県立淡路島公園内で運営するテーマパーク「ニジゲンノモリ」で5月中旬、人気ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズをテーマにした新アトラクションをオープンした。回遊型で自然を体感しながら楽しめるのが売りだが、3度目の緊急事態宣言で厳しい状況にあることは否めない。
同社はニジゲンノモリ以外にも、サンリオのキャラクター『ハローキティ』をテーマにしたレストランなど複数の施設を運営。これら施設を目当てにやってきた観光客を、日本最古の神社と言われる伊弉諾(いざなぎ)神宮などの地元スポットに誘導できれば、地域全体で観光産業の相乗効果が期待できる。
淡路市商工会の担当者は「パソナの観光施設へ来た客に、いかにして地元の飲食店や宿泊施設を利用してもらうかが課題だ」としている。いまだ相乗効果が十分とは言いがたいだけに、地元施設を組み込んだ観光ルートの提案など、地域との連携をより強めることが求められる。
パソナグループとしては、観光施設運営などを含む「地方創生ソリューション」の事業セグメントは営業赤字が続いており、まだまだ先行投資段階。コロナ禍の収束が見通せない中、観光産業だけに頼る地方創生策には限界があるのも事実だ。本社機能の一部移転が、淡路島でどのような新ビジネスの展開につながるのか。パソナグループの力と本気度が試される。
企業の“東京離れ”進む
経団連が20年11月に行った調査によると、東京に本社を有する経団連幹事会社433社のうち、東京からの移転を「実施中」「検討中」「今後検討する可能性がある」と回答した企業の割合は22.6%となった。15年実施の同様のアンケートでは7.5%だった。アンケートには131社が回答した。
本社機能の全部または一部移転に関する検討状況について、移転を「実施中」が3.9%、「検討中」が7.8%、「今後検討する可能性がある」が10.9%の割合だった。
15年当時と単純比較はできないが、本社機能分散を検討する企業が増えていることがうかがえる。
インタビュー/パソナグループ代表・南部靖之氏 地方発展には「人材誘致」
―機能移転に関連した整備の状況は。
「通信インフラや住居などを新たに用意している。家族を持つ社員のため、企業内保育施設を作った。小中学校に通う子どもの数が急に増えるので、行政との調整も必要だ。産業医を連れてきて医療環境も整備した」
―コロナ禍で移転遅れは避けられません。
「(2度目の緊急事態宣言直前の)20年12月からは社員を動かしていない。状況が落ち着き次第再開したい。だが、受け入れるためのオフィスがまだまだ少ない。現在は複数の既存施設を賃借して活用中だが、23年春までには800人程度が働ける新社屋を建設する。リモートワークの普及で企業への帰属意識が希薄化しているため、そこで社内教育を強化する狙いもある」
―淡路島経済にどう貢献していきますか。
「(主に展開する北部は)島とはいえ神戸にも近く、立地条件が非常に良い。これまでは農業しかなかったのでUターン転職もできなかった。本社機能を持ってくれば、人工知能(AI)や経営企画などに強い地元出身の人材を外部から集めやすくなる」
「神戸や大阪に住みつつ淡路島に通勤することも可能で、それによって(多様なスキルと人間力を持つ)『ハイブリッドキャリア』の人材も増やせる。将来的に淡路島勤務の社員の約1割を、そうした外部人材にする。淡路島拠点で進める新規事業にも、外部人材を活用したい」
―淡路島の活性化に必要なことは。
「地方が発展するためには、今までは工場の誘致が必要だったが、これからは『人材の誘致』だ。IT関連はまだまだ伸びる。当社としては、IT分野の人材派遣や教育を強化していく。人材ビジネスはたくさんある」