データ活用人材の新卒採用競争。“特別な”インターンシップが「前哨戦」に

連載・本当のインターンシップ #02

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新生銀行のインターンシップ「新生ハッカソン」では最終日に学生が開発したモデルをプレゼンする

多くの企業はDX(デジタル変革)を推進しており、それに必要なデータ活用スキルを持つ人材は争奪戦だ。新卒市場でもプログラミングなどを学びデータ活用の素養を持つ学生を採用する動きは活発化しており、そうした学生の興味関心を引く上で、インターンシップは重要な機会になっている。特に、金融業界は学生がデジタルをイメージしにくく、認知度の高い大手でさえ、デジタル志向の強い学生を採用選考に集めづらい課題感を持つ。そこで、そうした学生を対象に、より実践的で長期間の特別プログラムを設けて集客する動きが広がる。インターシップがデータ活用人材採用競争の「前哨戦」になっている。(取材・葭本隆太)

ハッカソンで濃密な体験

「当たり前のことをデータで可視化しても意味はない」「使うデータを取捨選択しないと精度は上がらない」―。審査員から厳しい指摘が飛ぶ。新生銀行が2月にオンラインで開催したインターンシップ「新生ハッカソン」だ。新生銀行が保有する大量のデータを活用して、顧客による資産運用商品の購入確率を予測するモデル開発を行う9日間のプログラムで、その精度や新規性などを9人の学生が競った。最終日には学生がそれぞれの予測モデルとそれを活用した分析結果を発表し、新生銀行グループ関係者やスタートアップ経営者などの審査員が講評した。

新生ハッカソンは2017年に始まり、毎冬に開催している。その実践さながらで厳しさも伴う濃密なプログラムは、学生に銀行でのデータ分析業務を理解してもらう効果を十二分に発揮している。そしてそれは、データ活用人材を強く欲す新生銀行の採用活動に貢献している。19年度まで過去4回の新生ハッカソンには学生40人が参加したが、そのうち9人が新生銀行に入社した。

2019年度「新生ハッカソン」の参加学生ら

新生ハッカソンを担当する新生銀行グループデータ戦略室の樋口雄飛室長が力を込める。

「(開始当初はインターンを通して)独自の学べる機会を学生に提供したいと考える中で、我々が持つ(資源の)一番の特徴である大量のデータを生かそうと(新生ハッカソンを)企画しました。そのため、採用戦略は意識せずに作ってきましたが、結果として(データ活用人材の)採用戦略における差別化要素になっています。濃密な時間を過ごすことで(我々に対する)理解は深まりますから」

特別コースで集客に注力

今やデータ活用人材は引く手数多だ。その獲得競争は新卒市場に及んでおり、データ活用の素養を持つ学生の関心を引く上で、インターンシップは重要な機会になる。就活支援サービスを手がけるベネッセi-キャリア(東京都新宿区)商品サービス本部の桜井貴史本部長が説明する。

「(データ活用人材を確保するために)企業は既存社員の教育や即戦力人材の獲得を図っていますが、どちらも(成果を上げるのは)難しく感じています。そこで、データ活用の素養を持つ学生の獲得に目を向け、そうした学生向けの特別なインターンシップを企画して採用につなげる動きが広がっています。その中で、金融業界は学生がデジタルをイメージしにくく、知名度のある大手でもデジタル志向を持つ学生が集めづらい課題を持っています。そのため、特別なインターンシップを設けて集客に注力する企業は多いです」

りそな銀行は4-5日でデータ分析業務を体験できるインターンシップを例年実施している

りそな銀行は、データ分析業務を体験できる4-5日間のインターンシップを例年実施している。さらにその参加者の一部には有償による3―6カ月程度の長期インターンシップの機会を提案するなど、学生を強く引き付けるための仕組みを設けている。同社リスク統括部の荒川研一プリンシパルが明かす。

「インターンシップは、すべてのプログラムにおいて採用への流れを意識していますが、(人材獲得競争の激しい)データ活用人材は(採用への流れを)より意識せざるを得ません」

インターンシップ参加者に特別の選考過程を用意するケースもある。マネックス証券は「本選考直結」をうたい、数日―数ヶ月のインターンシップを実施している。インターンシップで評価が高い学生はエントリーシートと一次面接を免除する。すでに1人がこの仕組みで入社したという。

学生はデータ分析業務があることを知らない

インターンシップを通して自社への関心を引き、採用実績につなげている金融各社だが、それでもまだまだデータ活用の素養を持つ学生の目を自社や業界に向かせ切れていないという課題意識は強い。

第一生命保険は、データ分析業務が体験できるインターンシップ「QUANTS&DATA SCIENTISTS COURSE」を20年卒から始めた。また、21年卒の採用から入社当初はデータ活用業務などを担う部門に配属する選考コースも設けた。このコースにおける22年卒で内々定を出した学生5人のうち、インターンシップ参加者が3人を占めた。インターンシップを通して学生に仕事の理解を促し、それが結果的に採用につながった。それでも、同社人事部の宮原眞悟マネジャーは強調する。

金融業におけるデータ分析業務を想像できる学生は少ない(写真はイメージ)

「データ活用人材はあらゆる業界が求めますし、第一生命にそうした仕事があることを知らない学生はまだ多いでしょう。(インターンシップなどを通して)我々が求めていることをもっと強く打ち出していきたいです」

新生銀行の樋口室長も「金融業におけるデータ分析業務をイメージできる学生さんはまだ相当少ないと思います」と指摘する。

データ活用人材は業界問わず争奪戦になっている。インターンシップという「前哨戦」を通した仕事理解の促進や興味関心の醸成はさらに重要性を増しそうだ。

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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局DX編集部
ニュースイッチ編集長

データ活用の素養を持つ学生をいかに集めるか。「そもそもそうした学生が入社した時に、どのような分野で活躍できるのかを明確にして、そのイメージに合致する人材像がどのようなものかを定義付けなくてはいけない」と語る金融大手の人事担当者もいました。多くの企業がDXは必須という認識を持ち、そのための人材獲得を図っていますが、それと同時にどのようにDXを進めるべきかの答えをまだ持っていない企業も多いという現状も垣間見えた取材でした。

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