インターンシップに悩む企業。コロナ禍でオンライン化進むも「対面したい」事情

連載・本当のインターンシップ#01

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清水建設はVR映像を活用したインターンシップを実施した。約500人が参加した

87.8%―。2022年に卒業予定の学生のうち、インターンシップ(※)に参加した割合だ。インターンシップは今やその先の就職・採用活動を見据えた重要なイベントとして一般化した。コロナ禍の20年も多くの企業がオンラインを活用して実施し、自社や仕事に対する理解を促した。その特殊な環境でよりよいプログラムを提供するため、VR技術などの活用に挑む企業も現れた。

一方、オンラインのインターンシップでは、仕事や職場の魅力を伝えきれないといった課題も顕在化した。23年卒の学生がメーン対象となる夏のインターンシップが本格化し始める中、企業はウェブと対面の融合を模索するなど、コロナ収束後の最善のプログラムのあり方に頭を悩ませている。(取材・葭本隆太)

インターンシップ:学生が実際に企業で働いたり、企業に訪問したりして職業理解を進めるイベント。1-3日程度の短期間のものが多く、学生は複数企業のプログラムに参加するのがトレンド。就活関連サービスを手がける企業の担当者は「インターンシップは企業にとって母集団形成のための重要な機会になっている」と指摘する。なお、経団連と大学団体で構成する協議会は1日のプログラムでは十分な「就業体験」が確保できないとしてインターンシップと認めないことで合意したが、本記事のグラフなどにおける「インターンシップ」には1日以内のプログラムをも含む。

現場の雰囲気をVRで伝える

「屋上に来ました。ここでは屋上庭園の骨組みを組み立てています」―。高層ビルの建設現場をVR(仮想現実)映像で紹介しながら、現場を担当する女性社員がリアルタイムで解説する。清水建設が2020年9―10月に行った建築施工業務のインターンシップだ。参加した学生は、チャット機能などを通して疑問点を問い合わせながら建設現場をオンラインで疑似体験した。

「例年のインターンシップは、実際の建設現場に来てもらう5日間のプログラムで仕事の理解を深めてもらっていました。コロナ禍でオンライン化が余儀なくされた中で、現場の雰囲気をなるべく伝える手段としてVR技術を活用しました」。インターンシップを企画した清水建設人事部人財開発グループの嶋森遥子さんは説明する。

インターンシップは今や8割を超える学生が参加する。企業はその先の採用活動を見据えて、学生に業界や自社の仕事に興味関心を持ってもらったり、理解してもらったりする重要な期間と位置付ける。コロナ禍の20年は多くの企業が実施に苦慮したが、それでも結果的に6割が実施した。多くの企業がオンラインでの講義・座学や社員との座談会などを組み込むことで開催にこぎ着けた。

そうした中で、清水建設のように一歩踏み込んで企画を練る企業が現れた。リクルート就職みらい研究所の増本全所長は「(コロナ禍という例年とは異なる環境の中で)新しいテクノロジーを活用して、よりよいプログラムを提供する動きがありました」と振り返る。例えば、佐川急便はVRを活用し、セールスドライバーの仕事をゲーム形式で体験できるプログラムを導入した。

また、第一生命保険は大規模な就活イベントをVR空間で開いた。例年はリアルで行っていたイベントの開催場所をVR空間上に再現し、学生がオンラインを通してアバターで参加できるようにした。オンラインでも学生同士や社員と学生が交流しやすい環境を構築した。

新しい挑戦をアピール

新しいテクノロジーを活用した企業の狙いは、仕事や職場に対する理解を促すためだけではなかった。清水建設人事部の綿引秀樹人財開発グループ長(取材当時)は「(オンラインで)社員が説明したり、現場の動画を流したりといったプログラムは多くの企業が行うと思いましたが、VR活用にたどり着く企業は少ないだろうと見通しました。プログラムの差別化によって(自社の興味関心につながるような)評価を得る目論見がありました」と明かす。

実際に参加した学生からは「新しいことに取り組む企業姿勢がいい」などと評価され、狙い通りだったという。

第一生命はインターンシップではないが、大規模な就活イベントをVR空間上で開催した

第一生命の担当者も「(就活イベントにVR空間を活用することで)新しく面白いことに挑戦する姿勢を学生に示したいと考えました。金融業界に定着している『堅い』イメージを変えたい思いがありました」と説明する。その上で「(VR活用の効果か)今年は多様な媒体での就職人気ランキングが上昇しました」と満足げだ。

とはいえ、清水建設も第一生命もVR技術の今後の活用は最優先ではなく手段の一つと捉える。その理由の一つはもはや差別化にならないことだ。両者は「今後は多くの企業が利用して当たり前になるのでは」と声を揃える。そしてもう一つが、対面にはどうしても劣るという実感だ。

清水建設の嶋森さんは「VR映像は学生が好きな場所で好きなときに(建設現場を)疑似体験できる良さがありますが、温度や湿気、においなど現場の厳しさを含めて完全に再現はできません」と説明する。インターンシップを通した「就業体験」によって入社後のミスマッチを失くすためにも、現場に1日でも足を運んでもらいたいと思っており、今冬のインターンシップに向けてはオンラインと対面の融合を模索していくという。

 マイナビキャリアリサーチLabの東郷こずえ主任研究員は「特に技術職のインターンシップは、現場でモノに触れてもらわないと就業体験にならないと考えており、対面で実施したいと考える企業は多いです」と指摘する。

対面が持つもう一つの価値

対面の優位性は、プログラム自体の効果に留まらない。オフィスを見たり、そこで働く社員と直接顔を合わせたりといったプログラム前後の体験も、仕事や職場の理解を促すために不可欠と考える企業は多い。

りそな銀行は冬にデータ分析の業務を体験する4日間のインターンシップをオンラインで実施した。初のオンライン開催ながら、プログラムのメーンであるグループワークでは、学生同士が活発に議論を交わす場面が見られるなど、オンラインでも十分実施できる手応えを得た。募集する学生の枠を前年の50人から100人に増やせるメリットもあった。

それでも、このプログラムを担当したりそな銀行リスク統括部の荒川研一プリンシパルは「今後コロナが収束したら対面に戻したいですね。学生にとっては会社に足を運んだり社員の背中を見たりすることを含めて『就業体験』だと思いますから」と力を込める。

リクルート就職みらい研究所の増本所長は「(オンラインで実施した経験などを踏まえて)対面の方が自社の仕事の魅力を伝えやすいと考える企業も少なくなく、今後対面は復活していくでしょう」と推察する。一方で「(オンラインのコミュニケーションが当たり前の)学生はあえて対面で実施する意味に敏感になりつつあります。プログラムの内容によっては、『オンラインでも良かったのでは』と思われて(マイナスイメージが残って)しまう可能性があります」とも指摘する。

 同様に、マイナビキャリアリサーチLabの東郷主任研究員も「今後はコロナ対策のためのオンライン活用ではなく、内容に応じたオンラインと対面の使い分けが求められます。特に対面は(学生の目が厳しくなっているため)よりプログラムをブラッシュアップせざるを得ない状況になっています」と説明する。

学生にとってオンライン形式は移動のコストがかからず、参加しやすいメリットがある。コロナの収束時期も見通しにくい中で、企業は学生を納得させつつ、自社や仕事の魅力を伝えられるプログラムの模索を続けている。

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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局DX編集部
ニュースイッチ編集長

業種によってはそもそもの働き方がテレワークになったため、インターンシップがウェブ形式であっても実際通りに就業体験できるという声も聞きました。しかし、業務自体がそうであっても、自社を深く知ってもらうためにオフィスに直接足を運んでもらったり、社員と直接対面してもらったりということを重視する企業は多いです。また、インターンシップというと学生にとって就活の第一歩として企業や業界を理解する手段という意味合いが強くなっていますが、大学側にとっては「キャリア教育」という位置づけがあります。そこにあるギャップについては、連載の第三回で触れたいと思います。

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