最低賃金引き上げへ政府が支援策。その場しのぎにならないために必要な視点
政府は10月からの最低賃金引き上げに向け、人件費の負担増となる中小企業向けに支援策を講じる。雇用維持などの支援策が中心だが、単なる負担軽減だけではその場しのぎに過ぎない。企業は労働コストの上昇を生産性の向上で吸収するのが筋だ。政府は企業がビジネスモデルの再構築などに取り組みやすい環境を構築する必要がある。(編集委員・川口哲郎)
政府支援、その場しのぎ
「最低賃金の引き上げに向けた環境整備を行い、賃金格差の拡大を是正しながら、賃上げの流れをさらに強固なものにする」。菅義偉首相は21日の経済財政諮問会議(議長・菅首相)後に表明した。
厚生労働省は、休業手当の一部を助成する雇用調整助成金(雇調金)の助成率10分の9以上を年末まで維持する方針だ。雇調金給付の財源確保のため、雇用保険料引き上げの検討に入った。また最低賃金引き上げに対する主な支援策である「業務改善助成金」について、8月から賃金引き上げ対象人数を最大10人以上のメニューを増設し、助成上限額を450万円から600万円に拡大する。
経済産業省は事業再構築補助金について、最低賃金引き上げの影響を受ける中小企業向けに特別枠を設定し、補助率を引き上げる。
最低賃金の引き上げが大きく経営に影響するのが従業員10人未満の中小だ。この中でも、改定後の最低賃金額を下回ることになる労働者の割合は、宿泊・飲食サービス業がもっとも高い。
こうした小規模事業者への影響を配慮しつつ、生産性向上によるコスト吸収を果たせるかが問われる。きめ細かい支援策が不可欠だ。特にコロナ禍を経て、対人接触機会の減少や無人・自動化のニーズは高まり、抜本的なビジネスモデルの転換が求められる。
最低賃金の過度な引き上げは景気や雇用を悪化させる恐れもある。韓国は最低賃金を2018年に前年比16・4%増、19年に同10・9%増と引き上げた結果、飲食サービスなどの自営業者の廃業が相次いだ。大企業の多い製造業に対し、小規模事業者の多いサービス業では生産性の高い企業にとって代わるプロセスが働かなかったようだ。
政府は21年度後半にコロナ前の水準に回復する見通しを立て、「自律的な経済成長軌道に乗せるブースターとなるのが賃上げ」と位置付ける。だが足元では都市圏で新型コロナ感染者数が急拡大している。
大和総研は「感染拡大リスクが低下してから最低賃金を上げるべきだ。急いで上げるのはマイナス」と指摘している。