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脳のネットワーク研究で「痛みの可視化」に成功。その方法は?

脳のネットワーク研究で「痛みの可視化」に成功。その方法は?

34結節点からなる2つの集団(色分け)のネットワーク例(NICT提供)

「すべての道はローマに通ず」は、ローマ帝国の巨大な道路網により、首都と周辺都市の間で、人、物、情報が迅速に移動可能な状況を表している。ネットワーク科学の用語では「ローマ」はハブ(hubnode)であり、周辺都市はノード(node)である。人間は、日常生活の中でさまざまなネットワークに出会う。これは単なる物理的結合ではなく、機能的であり、ノード間の因果関係を記述することができる。

脳の神経細胞の結合は、時間をかけて結合強度を変化させ、学習の間に集めた情報を記憶したり、あるいは、疾病などにより破壊されたりする。脳が複雑な課題を解決するには、膨大な数の神経細胞とそれらの結合が必要になる。人間の脳には、約900億の神経細胞と100兆の結合(シナプス)があると言われている。

現状の神経活動可視化技術(例えば、fMRI〈機能的磁気共鳴画像装置〉)では、神経細胞ひとつではなく、数千の隣接した神経細胞の活動の平均が計測されているだけである。脳の機能的なネットワークを解析するためには、脳内のいろいろな部位からの信号を長い時間比較する必要がある。

経験の差や神経学的疾患に起因する被験者脳の結合のわずかな差異を、どのように効率的に同定したら良いのだろうか? 脳情報通信融合研究センター(CiNet)の我々の研究チームは、脳のネットワークの「コミュニティ構造」を使って、健常者と、統合失調症や慢性疼痛(とうつう)を患った患者の脳の特徴を比較した。

「コミュニティ構造」は、脳のネットワークの中間的な様相であり、ノードがグループ化された集団を記述している。

グラフ理論と統計学的比較によって、我々は、被験者の脳の「コミュニティ構造」が、健常者と患者のどちらに近いかを決めることに成功した。

機械学習や脳活動の画像化データ活用の進展により、我々の脳ネットワーク研究は、神経学的疾患をより早期に検知して適切に治療できるようになる未来社会に大いに貢献するであろう。

未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター・脳情報工学研究室 主任研究員 Kenji Leibnitz
独ヴュルツブルグ大学で情報科学の博士号を取得後、2004年から大阪大学で研究。10年からCiNetで脳と情報ネットワークの融合研究に従事。
日刊工業新聞2021年6月29日

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