脳波や電波の状態推定。より正確に脳波を測るためには?

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脳情報通信融合研究センター(CiNet)には、さまざまな分野の研究者が集っているが、宇宙工学の出身は珍しい。私は、衛星軌道から脳内ダイナミクスに研究の対象を移し、計測された脳波から、刻々と変わり跳ぶ可能性もある脳波の振幅と位相を推定する研究を始めた。

考えられる推定式の候補から最も理にかなう式をベイズ推定で選ぶ。具体的には、真の値同士や観測値などとの予想される関係を確率分布に表して組み合わせ、最も起こり得る状態を浮かび上がらせる。人工衛星の軌道決定で有力なカルマンフィルターを一般化したものに相当する。

劇的に進展しているさまざまな人工知能(AI)技術の中で、ベイズ推定は高精度化させる際の理論的裏付けがしっかりしているため応用展開力がある。情報通信研究機構(NICT)内での連携研究において、精密測位に対して信号値が跳ぶ状況下でも精度を保つ技術や、レーダー画像において外れ値を推定しながら輪郭を検出する技術に応用した。

脳波の研究においては、計測の際に頭部が動いて発生したノイズをベイズ推定で除く研究も始めている。生活の質を高めるために、脳の状態を脳波でモニタリングする手法の研究も進められているが、現状では、計測の間、身体をできるだけ動かさないことを課さざるを得ない。私たちは日常生活のさまざまな状況でもより手軽に、より正確に脳波を測ることができる技術を目指している。

そんな脳波とは何であろうか。これまでの研究で、マクロな脳波のさまざまな現象についても、ミクロな脳神経細胞の活動についても相当な知見が得られているが、脳波の変動が細胞レベルのどのような活動から生じているのかは、あまり解明されていない。

中間規模の脳神経細胞集団が構成要素であると仮定して、集団の挙動を模す活動モデルが考案されたが、根拠も精度も乏しい状況である。我々は、ミクロな神経細胞と中間規模の神経集団モデルとの対応関係の一部を確率微分方程式による数値実験で得ることに成功した。今後は、マクロな脳波との関係まで明らかにして、脳機能計測技術の高度化につなげていきたい。

神経細胞モデル(a)の集団的電気活動(NW simulation)と神経集団モデル(b)の活動(Our model)。先行研究(RCMT model)より対応関係が良い(図はUmehara et al.,2017, Biol. Cybern.から引用し抜粋=情通機構提供)
未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター・研究マネージャー 梅原広明
1998年総合研究大学院大学後期博士課程修了、同年郵政省通信総合研究所(現NICT)入所。2013年よりCiNetにて現職。日本学術振興会より平成30年度特別研究員等審査会専門委員の表彰。

日刊工業新聞2021年6月8日

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