【ディープテックを追え】耕作放棄地をAIで”探る”。農業にもDXの流れ
国内の農地面積は減少の一途をたどっている。1961年の609万ヘクタールをピークに減少が続き、2020年には437万ヘクタールに減った。宅地への転用に加え、耕作放棄の増加も大きな問題となっている。今後は農地の利用状況を正しく把握し、分散した耕作放棄地などを集約して運営する「集約耕作」を行うことが欠かせない。
農林水産省も将来的な衛星データの活用を想定し、農地の状況を把握する実証実験を行っている。こうした中、サグリ(兵庫県丹波市)は、衛星データを使い耕作放棄地かどうかを把握するソリューションを手がけている。
地図上に区分け
サグリが進めるソリューションはこうだ。まず衛星から取得できる地表のスペクトルデータと、地表の状況を学ばせた人工知能(AI)によって、農地の状況を把握する。これに加えて、農水省がまとめている国内農地の区画情報「筆ポリゴン」を活用。地図上に一筆ごとの区分けができることから、これら一連の技術を組み合わせることで、農地かどうかに加え、場所を地図上に落とし込むことを実現した。この技術で開発したのが耕作放棄地を判定するアプリケーション「ACTABA(アクタバ)」だ。
「農業DX」の流れを取り込む
農地法では各自治体の農地委員会によって、耕作放棄地の調査が義務づけられており、現在では目視での確認が求められている。しかし、耕作放棄の増加に伴い、目視によるパトロールの人的、金銭的負荷は高まっている。実際、農地の情報更新は手書きのデータを入力し、紙の地図に区画ごとにマーキングする事例も多い。
この状況を踏まえ、農水省は「農業DX」を標語に掲げ、様々なデジタル化を進行している。その一つが22年度から開始を予定するデジタル地図を使った農地情報の一元管理だ。これまで農地委員会ごとに分断されていたデータを一元化。それに加え、衛星データやAIの分析データ、筆ポリゴンなどの情報を活用し、デジタル地図を作る。サグリはアクタバを訴求し、耕作放棄地の把握から農地の地図作成、国への報告業務を一貫してデジタル化したいという農地委員会のニーズを取り込みたい考えだ。
現在、つくば市を始めとした全国10市町村で実証実験を行っており、今後の採用も決まっている。坪井俊輔社長は「耕作放棄地かどうかを9割の確率で見極めることができる。あとの1割を目視で確認するとしてもかなりの業務改善になる」と話す。同社は6月にアクタバの普及に向け、第三者割当増資で約1億5500万円を調達した。22年8月には45市町村への導入を目指す。
多様な使い方を訴求
農地の状況把握の先に見据えるのは土壌観測への応用だ。衛星データから土壌の炭素量と窒素量を推計し、分析することで収穫時期や肥料の見極めを手助けするサービスの研究を進めている。坪井社長は「農家ごとにほしい情報は異なる」と口にするが、「将来的には天気予報を見るような感覚で土壌観測のデータを使ってほしい」と展望を語る。
また、東南アジアやインドでもサービスの展開を検討する。実際、インドでは衛星データから取得した農地情報を銀行に提供し、信用情報の裏付けに利用するマイクロファイナンス事業を始めている。土壌や肥料の情報から収穫量を予測すれば、農家が融資を受けやすくなる。タイではAIで地図上に区画情報を反映するシステムを提供している。これら一連の技術を国内外のニーズのある地域で展開し、サービスの品質を向上していく。坪井社長は「これらのサービスは全て同じ技術が下敷きになっている。アウトプットの形を変えるだけで用途が広がる」と話す。欧米とは異なり、アジアの多くの国は日本と同様の小作農が中心だ。だからこそ、「欧米とは違ったアプローチで農業の技術革新を支えた」と力を込める。
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