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学生たちが集う場所!日立物流が「カフェ」を開いたワケ

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学生たちが集う場所!日立物流が「カフェ」を開いたワケ

日立物流での産学連携イベント


日本の運送事業は物流クライシスともいわれる課題に直面している。この課題に対応するためには、AI(人工知能)・IoT(モノのインターネット)・ビッグデータなどを用いた物流の効率化・高度化や、運送事業がより適正な環境で行われるための制度整備、経営目線からのサプライチェーン全体でのロジスティクス戦略の設計などが求められる。技術的・制度的・戦略的に、さまざまなアプローチを行うため、文理融合の横断的な知識を活かし、積極的に行動する高度な人材が必要不可欠だ。

進まない高度物流人材の育成、溜まらない専門的知識

しかし、日本では物流に関する産官学連携での知識の整理・集約の場が少ない。中国、米国、ドイツなどは、大学に物流やロジスティクス、サプライチェーンに特化した専攻や専門プログラムを多く設けているが、日本では物流を体系的に整理する体制や、包括的に学べる機会が非常に限られている。社会人教育や企業内における物流部門の位置づけも他国と比較すると出遅れている。

このような状況を踏まえ、国土交通省、経済産業省、日本物流連合会、日本ロジスティクスシステム協会が連携し、2021年4月に「高度物流人材シンポジウム」を実施した。大学生、大学院生、物流分野の若手社会人を対象に、これからの物流業界に求められる能力について講演と対話が行われ、800名以上が参加した。

産学連携の物流人材育成への関心は高まりつつあり、実際に、民間企業と大学のコラボレーションも始まった。今回は、日立物流が2020年12月に開設した新施設「LOGISTEED CAFÉ」で行った、学生との産学連携イベントの様子を追った。

LOGISTEEDで共に創る物流の未来

「LOGISTEED」という言葉は、「LOGISTICS」に「Exceed」「Proceed」「Succeed」そして「Speed」という言葉を融合した造語で、「従来の物流領域を拡張し、これまでの物流の枠にとらわれない、サービス価値の提供を目指す」という日立物流のこれからのビジネスへの思いが詰まっている。

日立物流のロジスティクステクノロジー部副部長兼DX・イノベーション部担当部長で、「LOGISTEED CAFÉ」の店長を兼務する桜田崇治氏は、「日立物流だけでは十分に応えられない課題について、顧客やパートナーなどと一緒になって、お互いに得意な部分を融合しながらロジスティクスやサプライチェーンの変革を起こしていく」と話す。

今、この施設がパートナー企業だけでなく、学生を巻き込んだ人材育成や産学連携の場となり始めている。

これまでの物流の枠にとらわれない

2021年の初夏、物流に関心の高い大学生15人がLOGISTEED CAFÉに集まった。学生は、東京大学や一橋大学、慶応大学の、法学部、商学部、経済学部、教養学部、工学部など、文理融合の多様なバックグラウンドを持つ。学生の中でも物流は社会を支える欠かせないインフラ産業であるという認識が高まっており、このイベントに参加したという。

イベントで目をひいたのは270度スクリーンを備えた「TheatreS」だ。臨場感のある映像空間で、物流のリアルを体験できる。当日は、省人化率72%を実現している日立物流のECプラットフォームセンター「スマートウエアハウス」と新幹線の夜間輸送の2つのテーマが放映された。

また、LOGISTEED CAFÉのもう一つの柱である「Exhibition」では、インタラクティブディスプレイを通じ、日立物流の得意とする医薬品、化粧品、精密機器、小売などの3PL(サードパーティー・ロジスティクス、他の企業から物流業務を受託する)事業をはじめ、「SCDOS(サプライチェーン最適化サービス)」や、輸送の安全・安心・効率化のためのソリューション「SSCV(輸送デジタルプラットフォーム)」などを紹介している。

学生について、桜田部長は、「物流を単なるモノを運ぶ機能として見るのでなく、ロジスティクスという戦略分野として捉えて考えている。高い志をもった人材がロジスティクスやその周辺分野に携わることに期待している」と目を輝かせる。今後、日立物流は、学生を対象とする勉強会を積極的に開いていくとしている。

桜田部長

産官学で、物流の「人」の育成と「知」の蓄積を

日立物流「LOGISTEED CAFÉ」における学生との交流は、産学連携で高度人材育成を行う一つの例だ。経済産業省物流企画室の二宮翔平係長(肩書きは2021年5月末時点)は、「このような活動を多くの物流事業者や荷主事業者が積極的に行い、大学や学生が物流に関心を持つことで、これからの物流業界に必要なサプライチェーンマネジメント能力を持った人材の育成や、産官学連携での知識の整理・集約につながる」と話す。寄付講座の設置や産学連携の研究部門の立ち上げに加え、長期的には海外のように物流やサプライチェーンに特化した専門プログラムを持つ学部の設置も期待される。政府としても、体系的に物流を学ぶ場を作ることを視野に、大学との勉強会を始めているという。

物流分野における「人」の育成と「知」の蓄積は今始まったばかりだ。

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