火星探査用ドローンがスゴい!地球の33倍の揚力が必要なのに1キロも飛行
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の大山聖准教授と航空技術部門の杉浦正彦研究開発員らの研究グループは、火星探査用ドローンを設計した。東北大学や東京都立大学、工学院大学などとの共同研究。火星表面にある地下空洞中の飛行探査が目的で、2030年代に火星探査での実用化を目指す。1回の飛行で水平・垂直移動を合わせた最大飛行距離は1キロメートル。米航空宇宙局(NASA)が飛行実験した火星ヘリコプターの3倍以上の距離を飛べる。
火星には直径と深さが約100―200メートルの縦孔があり、その奥に洞窟が続く。地下空洞は温度が一定で放射線の影響が少なく、生物の痕跡を発見できる可能性があると期待されている。しかしローバー(探査車)の侵入が難しく、小型航空機による探査が求められている。
研究グループはマルチコプターのような形状の火星ドローンを設計した。通常、ローターの回転速度がマッハ1近くになると衝撃波が発生して飛行が困難になる。だが、ローター回転速度がさらに速くなっても衝撃波が発生しないことなどをシミュレーションで解明した。
当初はローターの回転速度が衝撃波の影響を受けないマッハ0・77となるようにペイロード(積載量)を1・1キログラムに設計。
シミュレーションの結果、ペイロードを1・9キログラムまで増やせることが分かり、自己充電装置や保温機能を搭載して何度も飛行探査ができるようになった。また、薄翼で前後縁が鋭角な翼型を採用するなど、1回で約1キロメートル飛べることが分かった。
火星の重力は地球の約3分の1。ただ、大気密度が小さく揚力は100分の1なので、飛行には地球と比べて33倍の揚力が必要となる。そのため、ドローンの設計は難しく、これまで飛行は困難とされてきた。
日刊工業新聞2021年6月7日