JAXAが実現を目指す衛星間通信システム「ルーカス」の実力
宇宙市場で地球観測分野が急拡大する中、通信の市場規模は5年間で2兆円を超えている。ニッチで成長率が高く、2030―50年には宇宙と地球をつなぐ欠かせないインフラになるとみられる。特に宇宙空間と地球との間を大容量データが高速で送受信できる環境づくりが注目されている。通信の高速化に向けた実証実験や技術開発が進むことで、通信容量の拡大やシステムの小型化、即時性につながると期待されている。
【静止衛星を中継】
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、低軌道上の地球観測衛星が撮影したデータを地上局に直接送らずに、静止衛星を中継して通信を高速化する衛星間通信システム「ルーカス」の実現を目指している。中継衛星を静止軌道に打ち上げて、あえて地球から遠い位置にデータを送ってから地球に届けることで通信の範囲を広げる仕組みだ。
地上局1局と地球観測衛星を直接通信すると、地球観測衛星が地球を1周する約90分のうち10分程度しか通信できる機会がない。地上局の数を増やせば解決できるが、地球上の70%以上が海であるほか、国によって法規制が異なるという課題があった。
これまでJAXAは2機のデータ中継衛星を打ち上げ、実証実験を行った。すでに2機は運用を停止した。ルーカスは後継機として改良され、従来よりも通信時間を約4倍にのばせると期待されている。
さらにルーカスの光通信には、JAXAがNECと共同開発したレーザー光によって宇宙空間で大容量データを送信できる装置が使われている。送信速度は従来の7倍となる毎秒1・8ギガビット(ギガは10億)に向上した。静止衛星―地球観測衛星間の距離は約4万キロメートル離れている。長距離の光通信のために、低出力のレーザー光を真空下で高出力に安定的に増幅し、微弱な受信光から広帯域の信号を復調する技術が盛り込まれている。ルーカスは20年11月に打ち上げられ、実証実験が行われている。
【情報伝送も重要】
静止衛星用の光通信装置のほかに、地球観測衛星用の通信装置も開発した。今後、打ち上げが計画されるJAXAの地球観測衛星「だいち3号」と「だいち4号」に搭載される予定だ。一方、中継衛星と地上局との情報伝送も重要だ。そこでJAXAと情報通信研究開発機構(NICT)が中継衛星―地上局間での通信実験を実施して成功した。
宇宙からの観測データは、海洋汚染や植生分布の把握などの経過観測や、地震や洪水といった災害発生時などさまざまな分野で活用されている。特に災害などの緊急時に企業や自治体が同システムを活用すれば、最新の地球観測データを常時取得でき、被害の最小化や復旧の迅速化につながると期待される。
JAXAの高畑博樹プロジェクトマネージャは「中継衛星を使った通信システムを確立させることで、デジタル社会を宇宙から支えるインフラにしたい」と意気込む。