【河野太郎・規制改革担当相インタビュー】規制を“一刀両断”、再生エネ主力電源化にかける思い
「所管官庁を替えてもらう」「いつまでにやるのか、コミットして来て下さい」。再生可能エネルギーの普及を阻む規制の見直しを議論したタスクフォースは、河野太郎規制改革担当相から厳しい指摘が飛んだ。緊張感のある議論は成果を生み、政府が6月18日に閣議決定した規制改革実施計画には再生エネ関連だけで130件の項目が並んだ。企業が入手できる量が少なく、高コストになっている再生エネの調達環境に改善の兆しが見えた。(編集委員・松木喬)
インタビュー/規制改革担当相・河野太郎氏 まだ序章、産業再興を
タスクフォースを主導し、規制を“一刀両断”した河野担当相に成果や再生エネの主力電源化にかける思いを聞いた。
―タスクフォースの評価や手応えを教えて下さい。
「菅義偉首相のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)宣言が、ゲームチェンジャーとなった。2050年までに脱炭素を目指すことになり、各省庁も業界も頭を切り替えた。改革の議論は閣議決定で一区切りではない。タスクフォースは区切りなく続ける。再生エネ100%の実現に向けては、まだスタートしたばかりだ」
―ソニーグループやリコーなどの社長が大臣をたずね、再生エネの調達環境改善を求めました。企業の声に応えられましたか。
「海外の巨大企業は取引先に再生エネ100%や脱炭素を求めている。日本企業は国際的なサプライチェーン(供給網)に残るため、突きつけられた要求をクリアしないといけない。しかし日本の再生エネは絶対量が少なくコストが高い。国際的に通用しない証書では、調達しても意味がない。まとめて早く見直さないといけない」
―大臣はタスクフォースで、日本の再生エネ産業が次々と撤退したことについて政府として反省しないといけないと発言しました。
「太陽光パネルは日本が世界トップを走っていたが今、日本メーカーはどこへいったのか。地元(神奈川県)の風車メーカーは引き合いは海外からばかりと話していた。国内で洋上風力の導入が始まるが、振り返ったら(国内企業は風車製造を)やっていない。外務大臣のころ、海外の大臣から日本の地熱発電を視察したいと言われた。発電タービンは日本製が多いからだが、国内に新規の発電所が少ないと言ったら(自国に市場がない日本を)不思議がっていた」
「エネルギーは日本にとってアキレス腱(けん)であり、その確保が課題。再生エネがSFから現実の世界となってコストも一番安ければ、やらないわけにはいかないだろう。防衛相のとき、自衛隊の施設で再生エネ電気の購入を始めたら想定よりも安かった」
―規制改革を実現していくには。
「首相が旗を振っているのに、役所が別の方向に向く選択肢はない。世界中が再生エネに巨額投資をしている時、日本だけがストップをかけると、技術的にも産業的にも取り残されてしまう現実を多くの人が見た。先が見えないものに無理やりお金を突っ込んで成果が出ないのなら、先のあるものにお金をつけていくことが大事だ」
―日本企業は脱炭素の市場を獲得できますか。
「日本企業がシェアを取らないといけない。世界的に再生エネに向けて動いていくのが分かっているから、その分野にしっかり投資しようと決断する経営者を待ち望む」
標的は環境アセス 手続き簡略化勝ち取る
会議は河野担当相直轄の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」。2020年12月に立ち上がり、有識者や再生エネ発電事業者、関係省庁の担当者が再生エネ導入の障壁となっている規制を洗い出してきた。準備会合を含めると短期間に20回以上も開催。新型コロナワクチン対応に追われる河野担当相も10回出席し、各省の担当者に改革を迫った。
タスクフォースで真っ先に標的となったのが環境影響評価(アセスメント)だ。環境アセスは大規模な開発事業が自然に与える影響を事前検証する行政手続きだが、風力発電事業者にとっては死活問題となっていた。環境アセスの手続きに4―5年かかり、すぐに着工できない。しかもアセス期間中にも年数億円の費用が発生するため、採算が見通しづらかった。
環境省の資料によると12年以降、手続きを終えた風力発電所は119件にとどまり、手続き中が302件ある(21年2月末時点)。12年の再生エネのFIT(固定価格買い取り制度)開始後、太陽光発電の導入量は5400万キロワットを超えたが、風力は195万キロワットと差がついた。
風力・森林・農地…開発後押し
日本風力発電協会はタスクフォースの場で、アセス対象を1万キロワット以上から5万キロワット以上に引き上げるよう要望した。1万キロワットだと風車を3、4基建てるだけで対象となり、ほとんどの事業で開発にブレーキがかかるためだ。アセスを所管する環境省と経済産業省はこれを受け、5万キロワット以上への変更を決めた。
森林も俎上(そじょう)にのぼった。事業者が森林で再生エネ事業を計画しても関係する行政窓口が多く、事前協議の日程調整だけで労力がかかっていた。農林水産省は事前協議が任意であることを周知するとともに、手続きを簡素化するマニュアルの作成を約束した。
農地にもメスを入れた。タスクフォースの資料によると耕作放棄地は42万ヘクタール存在する。しかし再生エネ事業に活用された農地は1万ヘクタール。農水省は再生が見込めない荒廃農地について「再生エネ設備の設置の積極的な促進が図られるよう努める」とする通知を都道府県などに出した。
他にも自然公園内での地熱発電や再生エネ発電所と電力系統との接続ルール、再生エネを使ったと見なせる証書なども対象に、タスクフォースは“快刀乱麻を断つ”勢いで130項目の見直しを決めた。