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“脱炭素先行地域”100カ所を国が支援、企業への影響は?

改正温対法が成立
“脱炭素先行地域”100カ所を国が支援、企業への影響は?

地域の特性を生かした再生エネ拡大で温室効果ガス「実質ゼロ」達成を目指す(黒部ダム=富山県立山町)

温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする脱炭素社会に向け、政府は地域に先導的な役割を託す。今国会で自治体の再生可能エネルギー導入を後押しする改正地球温暖化対策推進法(温対法)を成立させた。さらに国は9日、100カ所を“脱炭素先行地域”として支援すると表明した。企業も意欲的な自治体との連携によって脱炭素達成への道が開ける。(特別取材班)

促進区域を設定 企業誘致・経済発展に期待

温対法は国や自治体、企業が取り組む気候変動対策を定めている。5年ぶりに改正し、2050年までの排出実質ゼロを国の目標として明記した。そして脱炭素を先導する役割として地域に白羽の矢を立てた。

改正温対法は22年度に施行し、都道府県や中核市以上に再生エネ導入目標の設定を義務付ける。再生エネ事業を誘致する仕組みとして「促進区域」も設ける。市町村が再生エネ発電所の建設地を絞り込み、住民の意見を聞いて促進区域を設定する。現在、事業者が太陽光パネルや風力発電を設置しようとすると、景観を損なうとして住民と係争になる場合がある。促進区域は市町村が地域との調整を済ませているため、事業者は進出しやすい。

自治体の意欲も高まっている。50年までに二酸化炭素(CO2)排出ゼロ達成を宣言した自治体は404(6月8日時点)。人口にすると1億人を突破した。

排出ゼロを実現可能な自治体もすでに存在する。千葉大学の倉阪秀史教授の研究室らが各市町村で稼働する再生エネ発電所の発電量を算出したところ、地域のエネルギー消費量を賄える状況にある自治体が20年3月末で138あった。発電した電気の多くは電力会社に売っているが、138市町村は計算上、エネルギーの自給自足が成り立つ。都道府県別では風力発電の集積する秋田県が、自給率45・1%と全国トップだった。

国は、脱炭素への取り組みをまとめた工程表「地域脱炭素ロードマップ」を検討してきた。脱炭素を目指す100地域を選び、年度ごとに進捗(しんちょく)を評価し、好事例を全国に広げる。

小泉進次郎環境相は「国内で再生エネ発電所を急速に増やせなければ、再生エネでビジネスができる海外に企業が移転しかねない」と危機感をあらわにする。逆に再生エネを豊富に利用できる地域からは企業の流出を防げ、雇用を守れる。脱炭素を目指す企業も再生エネ導入に積極的な自治体へ進出するため、地域経済に富が生まれるとの見方だ。

自治体の取り組み

東京都 再生エネを基幹電源化

東京都は都内の温室効果ガス排出量を30年までに、00年比で50%削減する目標を打ち出している。戦略のひとつが再生エネの基幹電源化。初期費用ゼロでの住宅用太陽発電の導入支援や再生エネ電力の都有施設での活用に加え、21年度からは特定地区内で再生エネを無駄なく利用するシェアリングモデルの実証を開始。さらに都外で再生エネ電源を設置する事業者への補助事業も計画している。送電線を介して都内での再生エネ電力利用を促す。「東京はエネルギーの一大消費地だが、大規模施設の誘致は現実的ではない。大都市の特性を踏まえ、再生エネを積極活用する仕組みを構築したい」(環境政策課)としている。

神奈川県 屋根置き太陽光推進

神奈川県は排出量を30年度までに13年度比27%削減する計画を掲げる。国の新たな目標設定を受け、計画の改定を含めより適した施策を検討する。年間電力消費量に対する分散型電源による発電量の割合目標を20年度に25%、30年度に45%と定めた。都市部が広く、建物が多いことから屋根置き太陽光発電の導入を推進する。

大阪府・大阪市 エネ政策で共通目標

大阪府は30年度に13年度比40%減、大阪市は同30%減が目標。府・市とも50年の実質ゼロを目指し、中間時点となる30年度目標を3月に設定したばかり。国の「30年度46%減」を精査して必要に応じ見直す。府・市は3月に共同でエネルギー政策も打ち出し、再生エネ導入の共通目標を設定した。30年度に太陽光発電と燃料電池、廃棄物発電などの導入量で250万キロワット以上(19年度末は185万キロワット)を設定。電力需要量に占める再生エネ利用率は35%以上(現在は15―20%)とした。

群馬県 日照生かし太陽光拡大

群馬県は30年度に13年度比50%削減する目標を設定した。再生エネ導入は30年度に年間77億キロワット時の発電を目指す。そのうち大規模水力発電を除く再生可能エネの発電目標を46億キロワット時とし、19年度比8割増やす。県内は日照時間が長く太陽光発電や太陽熱利用に適しており、住宅や事業所などの太陽光発電設備と蓄電池などの導入を促進する。事業用太陽光発電は開発を伴わない屋根置き型を推進する。

茨城県 臨海部に促進区域

茨城県内は産業部門のCO2排出量が64%を占めており、全国平均の約2倍。17年に設定した30年度までの計画では産業部門で国よりも2・5ポイント高い13年度比9%削減とした。今後、新たな国の基準に応じて見直す方針。大井川和彦知事は「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出プロジェクト」を5月に公表した。臨海部を中心に新エネルギー関連ビジネスを促進する区域を設定する。

浜松市 促進区域は今後検討

太陽光発電の導入を加速させる自治体も多い(千葉県市川市)

浜松市は4月に策定した計画で30年度の削減目標を13年度比30%減とした。従来の同26%減より強化。50年に実質ゼロを目指す。再生エネの導入量は大規模水力を除いて30年度に18年度実績比96・0%増の13億7000万キロワット時、50年度に同3・2倍の22億1500万キロワット時を目指す。促進区域は国からの計画やマニュアルが示された後に検討する。

日刊工業新聞2021年6月11日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
人口1000人の脱炭素先行地域であれば、設備投資で40億-100億円、80-180人の雇用に効果があると環境省は試算しています。1000人の町で180人の雇用は確かに大きいです。巨費を投じて脱炭素を実現しても経済が疲弊したら地域社会は成り立ちません。経済効果も達成してほしいです。

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