ビールの苦味をウマく制御できる?キリンと東大が成分13種特定
キリンホールディングス(HD)と東京大学は、ビール醸造時に生成する苦味成分が長期保存で分解する反応機構を解明した。分解した苦味成分を単離し、複雑な構造の分子でも少量の試料で解析できる「結晶スポンジ法」で構造を解析。13種類の苦味成分の立体構造を決定し、それを基に反応経路を決定できた。ビール醸造時の苦味成分を制御でき、おいしく高品質で効率的な醸造法の確立につながると期待される。
分子の立体構造は高濃度の試料を使って結晶化し、X線を照射して得られた回折データを解析する手法が知られている。だが、ビールの苦味成分は得られる試料が微量であるため解析が難しく、過去50年間で数個しか構造が決定できなかった。
キリンHDは東大の藤田誠卓越教授らが開発した巨大分子の中で試料を閉じ込める結晶スポンジ法に着目。醸造時に生成する苦味成分を真夏の倉庫と同等の環境下の40度Cで1カ月保存した。時間と温度によって分解した苦味成分を単離し、同法で試料を解析。2年間で苦味成分13種類の構造解析に成功し、それを基に苦味成分の化学変化のメカニズムを構築できた。
ビールの苦味成分は長期保存することで苦味の強度が変わり、渋みが増加するなど味に変化が見られる。苦味成分の反応機構が見いだせたことで、おいしさを制御できる技術の開発につながる。
同社はノーベル賞候補者として名前が挙がる藤田卓越教授が担当する社会連携講座「統合分子構造解析講座」に参画。今回の成果は同講座内で得られた。
結晶スポンジ法は、分子が自発的に構造体を形成する「自己集合」を応用した分子の立体構造の解析方法。自己集合でできた分子は中央が空洞のカプセルのような構造で、たくさん並べたカプセルの中に試料を染みこませると、規則正しく分子が並び、X線を当てると試料成分の構造を解析できる。微量の試料でも対応可能だ。