発泡酒の出荷量が増勢に転じた意外な理由
16年連続で縮小が続くビール類(ビール、発泡酒、第三のビール)市場で、発泡酒の出荷量が2021年3月まで5カ月連続プラスとなっている。発泡酒は第三のビールが登場した03年以降、存在意義を失っていたが、20年10月の酒税法改正で第三のビールが増税となったことで割安感が増し、機能性商品を中心に販売が好調。アサヒビールは18年以降中止していたテレビCMを5月から復活するなど、マーケティング投資も再開する。(高屋優理)
アサヒビールの山本明太郎ビールマーケティング部担当部長は「エントリーユーザーを取りたい」と、テレビCM再開の狙いを明かす。アサヒの発泡酒「スタイルフリー」は「病気などで糖質を摂れない人など、飲み始める理由が明確で、売り上げの8割を2割のロイヤルユーザーが占める」(山本担当部長)という固定化した市場だった。
現在、発泡酒市場をけん引しているのは、アサヒのスタイルフリーと、キリンビールの「淡麗グリーンラベル」「プラチナダブル」の3商品。いずれも糖質やプリン体を低減した機能性商品だ。「定番の主力ブランドはなく、機能性商品が7割」(同)と、「発泡酒=機能性」というのが、カテゴリー自体の特徴になっている。
前年割れが続いていた発泡酒は、メーカーにとって投資の優先順位が低いカテゴリーとなり、ここ数年、新商品の発売はない。淡麗グリーンラベルは02年、スタイルフリーは07年と、主力商品の発売は2000年代に遡り、発泡酒の新商品はアサヒが09年、キリンは14年が最後。いずれもすでに終売となっている。発泡酒カテゴリーでの新ブランドは、13年にサッポロビールが発売した「極ZERO」が最後だ。第三のビールに価格でかなわなかった発泡酒は商品が淘汰(とうた)され、かろうじて固定ユーザーがいる機能性商品が残っていたというのが実情だ。
発泡酒市場が反転する契機となった酒税法改正では、第三のビールと発泡酒の価格差が350ミリリットル入り6缶パックで120円から60円と縮小。コロナ禍の健康意識の高まりと相まって、「スタンダードの第三のビールから機能性の発泡酒に流入している」(キリンビールビールマーケティング部の須藤友里さん)ことが、さらに市場を押し上げた。
足元は好調な発泡酒だが、酒税法は23年に発泡酒と第三のビールの酒税が同額となり、26年にはビール類の3カテゴリーの酒税が一本化される。今後、発泡酒の価格優位性は段階的に低くなる。ただ、サッポロビールの野瀬裕之社長は「第三のビールや発泡酒は開発の自由度があり、機能性商品が作りやすい。酒税が一緒になっても商品自体の価格差は残る」と指摘する。
発泡酒が03年以前の姿に戻る可能性は低いが、26年の酒税一本化に向けてさらにブランドの淘汰が進む。今後は息を吹き返したブランドを戦略的なマーケティングでいかに強化できるかが、問われそうだ。