紙はもう必要ないのか!?苦境にあえぐ製紙業界
採算割れ続出、市況悪化で海外に軸足
情報化の進展に伴う“紙離れ”が止まらない。日本製紙連合会(馬城文雄会長=日本製紙社長)がまとめた2018年の紙・板紙内需試算は前年実績見込み比0・9%減の2638万4000トンで、8年連続のマイナスとなる。内訳を見ると板紙は段ボール原紙がけん引し同0・8%増の1199万9000トンと堅調だが、印刷・情報用紙を中心とする紙は同2・3%減の1438万5000トン。板紙は16年から3年連続の増加になるが、07年から12年連続で減少する紙の落ち込みを埋めるほどの力強さはない。
業績面で需要減退に追い打ちをかけるのが、原燃料費の高騰だ。特に大きく影響しているのは、原料の約6割を占める古紙相場の上昇。中国向け輸出価格に引っ張られて16年度下期から上昇カーブを描き始め、「17年度上期の古紙購入価格は想定より約2割上昇した」(阿達敏洋大王製紙専務経営管理本部長)という。
製紙各社はコストアップに対応するため17年2月下旬から3月上旬にかけて、まず量が多い印刷・情報用紙で4月1日出荷分からの値上げを相次いで発表。これを皮切りに家庭紙のほか、産業資材の白板紙や段ボール原紙でも値上げを表明し、需要家と交渉を進めた。だが、価格転嫁が追いついていないのが実態だ。
特種東海製紙の関根常夫取締役常務執行役員は「重油や電気代を含めて、原燃料費がおしなべて上昇している。クオーター(四半期決算)が進むごとに前年同期に比べ、原燃料コスト上昇によるマイナス幅が広がっている」と懸念する。
中国政府では環境汚染を引き起こす企業・工場の排除とともに、主に欧米からの輸入古紙や廃プラスチックなどの資源ゴミに混入する異物の多さを問題視。環境負荷の増大につながることから昨夏以降、輸入ライセンスの更新見送りなどで徐々に規制を強め、17年末に全面輸入禁止とした。同国では廃業に追い込まれる製紙会社も出ている。
これにより古紙需給が緩み、17年度下期を迎えて相場は落ち着きをみせているが、中国の資源不足が根本的に解消されたわけではない。インターネット通販市場の急拡大などで、中国における段ボールや古紙の需給は逼迫(ひっぱく)している。中国の正月である春節明けの2月末以降、部分的に資源ゴミの輸入が再開される可能性もあり、相場動向は予断を許さない状況だ。
国内製紙各社が取り組んだ値上げ交渉は難航を極め、ほぼ決着したのは17年9月末。それも値上げ幅は最小限にとどまったもようだ。各社の四半期決算におけるセグメント分類に若干の違いはあるものの、本業の製紙事業で採算割れが続出している。
北越紀州製紙の岸本晢夫社長は「洋紙メーカーの営業赤字は業界全体で上期に約300億円。それが下期には500億―600億円に膨らむ」とみる。その上で、「製品値上げ以上にコストが上がっている。情報化の進展で国内洋紙市場の需給ギャップはさらに拡大し、1年前よりも悪くなった」(岸本社長)とする。同社では「供給過剰が続く限り、国内の洋紙事業で利益を上げられない状況が続く」(同)と断言し、海外展開に軸足を移す方針だ。
他方、産業資材の板紙は国内経済が回復軌道に乗り、着実に成長している。段ボール原紙のユーザー団体である全国段ボール工業組合連合会(全段連、大坪清理事長=レンゴー会長兼社長)がまとめた17年の生産量(確報)は前年比1・7%増の142億1622万平方メートルとなり、2年連続で過去最高を更新した。
需要部門別では約4割を占める飲料を含めた加工食品が需要全体をけん引。また、比率は1割に満たないものの通販・宅配・引っ越し用がインターネット販売の拡大で10%に迫る突出した伸びをみせた。18年についても同1・3%増の144億平方メートルで、3年連続の過去最高を見込む。
製紙各社にとっては板紙の需要は堅調だが、洋紙市況の低迷も足かせとなり、再値上げに踏み切るのはなかなか難しい。段ボール原紙を購入して加工する製段・製函業者は中小企業がほとんどで、薄利多売の事業を強いられている実情もある。
こうした状況が製紙各社の設備集約による効率化や、設備改造で生産品目を変える転抄といった自助努力を超え、業界を再編へ突き動かした。王子ホールディングス(HD)は2月上旬、三菱製紙の第三者割当増資を引き受けて持ち分法適用会社にすることを決めた。
両社は07年に資本・業務提携し、王子HDが三菱紙に2%余り出資して情報用紙のOEM(相手先ブランド)供給を受けている。王子HDは三菱グループ5社からの株式取得を含めて約100億円を投じ、持ち株比率を33%まで高めて提携範囲を業務全般に広げて、厳しさを増す製紙業界の経営環境に対処する狙いだ。
原燃料や資材の共同調達、物流の共同化などにより営業利益で21年度に両社それぞれ25億円以上、合わせて50億円超の収益改善効果を見込んでいる。
鈴木邦男三菱紙社長は「17年を迎えて洋紙市況が一段と悪化し、アライアンスを深めるために資本関係を強化することにした」と背景を語る。
(文=青柳一弘)
古紙相場が上昇、価格転嫁追いつかず
業績面で需要減退に追い打ちをかけるのが、原燃料費の高騰だ。特に大きく影響しているのは、原料の約6割を占める古紙相場の上昇。中国向け輸出価格に引っ張られて16年度下期から上昇カーブを描き始め、「17年度上期の古紙購入価格は想定より約2割上昇した」(阿達敏洋大王製紙専務経営管理本部長)という。
製紙各社はコストアップに対応するため17年2月下旬から3月上旬にかけて、まず量が多い印刷・情報用紙で4月1日出荷分からの値上げを相次いで発表。これを皮切りに家庭紙のほか、産業資材の白板紙や段ボール原紙でも値上げを表明し、需要家と交渉を進めた。だが、価格転嫁が追いついていないのが実態だ。
特種東海製紙の関根常夫取締役常務執行役員は「重油や電気代を含めて、原燃料費がおしなべて上昇している。クオーター(四半期決算)が進むごとに前年同期に比べ、原燃料コスト上昇によるマイナス幅が広がっている」と懸念する。
中国政府では環境汚染を引き起こす企業・工場の排除とともに、主に欧米からの輸入古紙や廃プラスチックなどの資源ゴミに混入する異物の多さを問題視。環境負荷の増大につながることから昨夏以降、輸入ライセンスの更新見送りなどで徐々に規制を強め、17年末に全面輸入禁止とした。同国では廃業に追い込まれる製紙会社も出ている。
これにより古紙需給が緩み、17年度下期を迎えて相場は落ち着きをみせているが、中国の資源不足が根本的に解消されたわけではない。インターネット通販市場の急拡大などで、中国における段ボールや古紙の需給は逼迫(ひっぱく)している。中国の正月である春節明けの2月末以降、部分的に資源ゴミの輸入が再開される可能性もあり、相場動向は予断を許さない状況だ。
国内製紙各社が取り組んだ値上げ交渉は難航を極め、ほぼ決着したのは17年9月末。それも値上げ幅は最小限にとどまったもようだ。各社の四半期決算におけるセグメント分類に若干の違いはあるものの、本業の製紙事業で採算割れが続出している。
北越紀州製紙の岸本晢夫社長は「洋紙メーカーの営業赤字は業界全体で上期に約300億円。それが下期には500億―600億円に膨らむ」とみる。その上で、「製品値上げ以上にコストが上がっている。情報化の進展で国内洋紙市場の需給ギャップはさらに拡大し、1年前よりも悪くなった」(岸本社長)とする。同社では「供給過剰が続く限り、国内の洋紙事業で利益を上げられない状況が続く」(同)と断言し、海外展開に軸足を移す方針だ。
他方、産業資材の板紙は国内経済が回復軌道に乗り、着実に成長している。段ボール原紙のユーザー団体である全国段ボール工業組合連合会(全段連、大坪清理事長=レンゴー会長兼社長)がまとめた17年の生産量(確報)は前年比1・7%増の142億1622万平方メートルとなり、2年連続で過去最高を更新した。
需要部門別では約4割を占める飲料を含めた加工食品が需要全体をけん引。また、比率は1割に満たないものの通販・宅配・引っ越し用がインターネット販売の拡大で10%に迫る突出した伸びをみせた。18年についても同1・3%増の144億平方メートルで、3年連続の過去最高を見込む。
製紙各社にとっては板紙の需要は堅調だが、洋紙市況の低迷も足かせとなり、再値上げに踏み切るのはなかなか難しい。段ボール原紙を購入して加工する製段・製函業者は中小企業がほとんどで、薄利多売の事業を強いられている実情もある。
王子・三菱紙が提携拡大。生き残り“待ったなし”
こうした状況が製紙各社の設備集約による効率化や、設備改造で生産品目を変える転抄といった自助努力を超え、業界を再編へ突き動かした。王子ホールディングス(HD)は2月上旬、三菱製紙の第三者割当増資を引き受けて持ち分法適用会社にすることを決めた。
両社は07年に資本・業務提携し、王子HDが三菱紙に2%余り出資して情報用紙のOEM(相手先ブランド)供給を受けている。王子HDは三菱グループ5社からの株式取得を含めて約100億円を投じ、持ち株比率を33%まで高めて提携範囲を業務全般に広げて、厳しさを増す製紙業界の経営環境に対処する狙いだ。
原燃料や資材の共同調達、物流の共同化などにより営業利益で21年度に両社それぞれ25億円以上、合わせて50億円超の収益改善効果を見込んでいる。
鈴木邦男三菱紙社長は「17年を迎えて洋紙市況が一段と悪化し、アライアンスを深めるために資本関係を強化することにした」と背景を語る。
(文=青柳一弘)
日刊工業新聞2018年2月26日