トヨタもホンダも、自動車メーカーで知財開放が広がる理由

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日産自動車は新型コロナ対策支援の一環で、技術の無償使用を許諾(体温体調管理システム)

自動車メーカーが知的財産を社外に開放する動きが広がっている。ホンダは4月、ライセンス契約などの窓口となるウェブサイトを開設した。自社技術の活用の場を広げる狙いだ。トヨタ自動車は車両電動化技術などの特許を無償で提供している。また新型コロナウイルス感染拡大対策として、自社の知財を開放する動きも相次ぐ。技術を囲い込まず、オープンイノベーションを図り、広く社会に役立てようとの機運が高まっている。(江上佑美子)

サイトに開発事例

広く世間に

ホンダは自社が保有する技術の社外活用を促進するため、ライセンス可能な技術を掲載したサイトを設けた。ホンダの技術を活用し、新しい製品や技術を生み出したいとの意欲がある企業からの問い合わせを受ける。

現在、サイトには摩擦熱と圧力で鉄とアルミニウムを接合する技術、抗ウイルスや抗アレルゲン加工を施した布地など、10件の技術を掲載している。ほかに異業種との開発事例や、製品化までの流れも紹介する。

ホンダは国内外で5万件以上の特許を持つ。ライセンスは有償だが、同社の別所弘和知的財産・標準化統括部統括部長は「ビジネス一辺倒の取り組みではない」と説明する。「当社の社名は『本田技研工業』。『自動車』に限定しておらず、技術で稼ぐ会社だ。ただホンダ(製品への利用)だけでは、用途が4輪車や2輪車などに限定されてしまう」と認識し、「当社の技術に外部からアクセスしやすくなれば、(いろいろな分野の製品開発などに応用するための)アイデアが出やすくなり、技術を広く世間で生かせるはずだ」と期待する。

電動車普及に弾み

トヨタは2015年、燃料電池車(FCV)普及に向けた取り組みの一環として、燃料電池関連のライセンスの無償提供を始めた。さらに19年には電動化技術のライセンス約2万3740件の無償提供を発表した。対象は電動化のコア技術に位置付けるモーター、パワーコントロールユニット(PCU)やシステム制御などの技術。ハイブリッド車(HV)開発で培った技術であり、電動車の普及が目的だとしている。

トヨタ自動車は19年、車両電動化技術の特許を無償開放した(モーター)

技術覇権狙う

ホンダやトヨタの取り組みが示すように、知財を社外に開放する試みが自動車業界で目立ってきた。ただ研究活動などを通じて生み出した特許は本来、企業の貴重な財産だ。自動車メーカーが特許開放を積極化している理由について、知財戦略に詳しい元東京理科大学教授の藤野仁三氏は「石油燃料を前提とした特許はいずれ役に立たなくなる」という共通の危機感が背景にあると分析する。

トヨタの取り組みについて「脱ガソリン車の時代が来るまでにはもう少し時間がかかるが、それからでは遅い。早いうちに技術覇権を広げ、『電動化に関してはトヨタの技術を使う』との流れを作っておきたいとの考えなのではないか」と解説する。

コロナ対策、権利行使せず 社会貢献の動き広がる

20社発起人に

一方、社会貢献を目的に知財を開放する動きも出ている。20年、トヨタや日産、ホンダのほか自動車業界以外の企業も含む計20社の経営者や知財責任者が発起人となり、「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」を発表した。新型コロナの早期収束を目的とした行為に対しては特許などの権利を行使せず、対価や補償も求めない。

同宣言に基づき、日産は熱画像センサー技術の使用をセンサーメーカーのチノーとセイコーNPC(東京都台東区)にそれぞれ無償で許諾した。体表面温度を皮膚に触れずに迅速に測定できる機器などの開発に使われる。また日産はシーイーシー(CEC)には、非接触体温計とサーモカメラで測定した体温などの情報を従業員ごとに自動登録するシステムの使用を許諾した。CECは自社の情報通信技術(ICT)サービスに同システムを搭載する。

藤野氏は「新型コロナ収束という未曽有の危機に直面し、特許は他社を排除したりロイヤルティー(使用料)を得たりするための手段ではなく、公益に生かすべきだとの考えが広まった」とした上で、「トヨタの特許開放は意識付けのきっかけになったのではないか」と分析する。

新製品や技術の創出や、脱炭素社会の実現などの社会課題に向け、オープンイノベーションを拡大する流れは今後も続きそうだ。藤野氏は「開放すべき特許と、守るべき特許の見極めが重要になる」と強調する。

日刊工業新聞2021年5月7日

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