鉄と炎と技術者と。“永遠の循環を担う”製鋼を追った迫真の写真集

本のホント#09 『鉄に生きる サスティナブルメタル 電気炉製鋼の世界』

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写真家の山崎エリナさん

鉄スクラップが命を吹き返す現場の炎の迫力や美しさ、そこで生きる技術者たち―。写真家・山崎エリナさんの新刊『鉄に生きる サスティナブルメタル 電気炉製鋼の世界』は、スクラップを原料に鉄製品をつくる「電気炉製鋼」の過程を追った一冊だ。北越メタルの複数の工場を約1年間かけて取材した。

山崎さんは国内外で活躍し、ここ数年は人々の生活を陰で支える土木の世界に魅せられ、工事現場で働く人たちの姿を撮影している。橋梁や高速道路などのメンテナンスの現場で撮影した『インフラメンテナンス』やトンネル工事の準備から完成までを追いかけた『トンネル誕生』などは話題を呼んだ。そんな山崎さんが、電気炉製鋼の現場で感じた製鋼の魅力や、写真集を通して伝えたいこととは―。(聞き手・葭本隆太)

電気炉製鋼:地域で出たスクラップを原料に鉄製品をつくり、地域に還元する。輸送に伴う二酸化炭素の排出量も抑えられるため、「永遠の循環を担う」製鋼法とされる。日本で産出される鉄スクラップは年間2500万トン。鉄のリサイクル率は95%に上り、それを電気炉メーカーが担っている。

炎の迫力に恐怖を感じた

《電気炉製鋼の現場では、消火器やガードレールなどの私たちの身の回りにあるものが、使い古された後に純度の高い鉄によみがえると初めて知り、私自身が感銘を受けました。(『鉄に生きる』では)電気炉製鋼の世界で生きる技術者の格好よさや、技術のすごさとともにそれを伝えたいです。》

写真1:鉄スクラップが投入された炉に電気が通され、轟音とともに火花が飛び散り、猛烈な勢いで炎が舞い上がる(@山崎エリナ)

電気炉製鋼はまず、地域で発生した鉄スクラップを集め、電気炉に装入して溶融する。山崎さんは、60トンもの鉄スクラップが投入された炉に電気が通され、轟音とともに猛烈な勢いで炎が舞い上がるシーン(写真1)に迫った。1600℃まで上昇した鉄が発する熱さを感じる現場で、その炎の迫力をどのように写真に収めたのか。

《最初は恐怖がありました。あれほど強烈な炎を間近で見たのは初めてですから。あまりの迫力にこれを写真に収められるだろうかという不安があり、(それに打ち勝とうと)格闘しました。その中で「恐怖というフィルターを取らなければよい写真は撮れない」と(自分に言い聞かせて)炎に一歩ずつ近づきました。最終的には10メートル離れていないくらいでしょうか。現場の方に「もうこれ以上近づいては駄目」と首根っこを捕まれるところまで近寄りました。》

一方、現場では炎に美しさを感じる場面もあったという。溶けた鉄を受ける皿(タンディッシュ)の表面に付着した鉄やスラグ(不純物)に酸素を吹き付けて除去するシーン(写真2)はその一つ。火花が激しく散っている。炎の迫力か美しさか、写真に収める対象の違いでカメラを構える山崎さんの心持ちも自然に変わっていたと振り返る。

《迫力を撮りたいときは、火が飛び出す勢いやリズムに自分の息を合わせる感覚でした。あるいは、走る獲物に照準を合わせて銃を「バン、バン、バン」と撃つ猟師のような感覚でしょうか。一方で、美しさはそれを写真に閉じ込めなくてはと考えていました。(カメラを構えて)美しさと向き合うわずか1秒くらいの時間があり、一呼吸おいてシャッターを切っていました。》

写真2:溶けた鉄を受ける皿「タンディッシュ」の表面に付着した鉄やスラグに酸素を吹き付けて除去している(@山崎エリナ)

熟練技術者にものづくりの原点をみた

『インフラメンテナンス』や『トンネル誕生』では、工事現場で働く人たちの姿に焦点をあてた。今回も同様に主役は人だ。なるべく自然な姿を収めようと、忍者のように抜き足差し足で近づき、被写体が気づいたときにはすでに目の前にいるといった撮影を心がけたという。そうした撮影を続ける中で、特に印象に残っている働く人の姿としては、鉄を叩いて強度を高め、目的の形状に成形する鍛造工程を担う熟練技術者(写真3)を上げる。

《とても淡々とした作業なのですが、熟練技術者の寸分の狂いもない作業のリズムに惹かれました。その姿にものづくりの原点が凝縮されているのかなと。また、熟練技術者の横で20―30代の若い技術者が作業をしていて、こうして技術が伝承されていくのだろうと感じ、印象的でした。》

写真3:現場で特に印象深いとして紹介してくれた熟練技術者の姿(@山崎エリナ)

思わずシャッターを切ってしまう姿もあった。壁にヘルメットがかけられた通路を技術者が歩く後ろ姿(写真4)はその1枚だ。

《職業にかかわらず、背中はその人の生き方が出ますよね。今回の現場を案内してくれた方もそうでした。それまでに、たたずまいや製品を説明してくれる姿から(仕事に対する)意識の高さを感じて、その方を撮りたいと思っていました。(その中で私を)次の場所に案内しようと、先に歩き出した瞬間に、周りの風景の中にいる後ろ姿がなんだか美しく、格好いいと感じて、これは撮らないとと思いました。》

写真4:技術者の後ろ姿の格好よさに思わずシャッターを切ったという(@山崎エリナ)

働く人に焦点をあてて撮影を続けていく現場では、その人たちが使う道具にも惹かれたという。

《現場に置かれた磨き上げられた道具や、油のにおいが付いた道具に「ぐっ」ときました。世界を旅して撮影していた時は人そのものより、人の気配やぬくもりを追いかけていました。例えば、おいしい夕飯の匂いがしてくるような夕暮れ時の街の路地裏とかですね。その感覚が今回はたまたまよみがえったのか、道具一つ一つに人のぬくもりや気配を感じて「もっと撮りたい」という衝動に駆られました。》

偶然のつながり

電気炉製鋼の現場を撮影するきっかけは、北越メタルの役員からの問い合わせだった。『インフラメンテナンス』を見たその役員から「自社で働く人たちを撮って欲しい」と依頼された縁で『鉄に生きる』は生まれた。また、北越メタルをめぐっては『トンネル誕生』の中に、同社の社員や鉄鋼製品が写っていたという偶然もあった。土木やものづくりの現場に向き合ってきた山崎さんの仕事の数々が今回の撮影につながっている。では、このつながりはこれからどこへ向かうのだろうか。

《私の興味は土木や建設の世界から、ものづくりや日本の技術に広がってきました。(トンネル建設であれ、鉄の製鋼であれ、)それぞれ私たちの暮らしに欠かせないものという共通点があり、今後も撮り続けたいテーマです。具体的にどのような現場を撮るかは、これまでと同じようにご縁かなと思います。》

☆写真集情報
【鉄に生きる サスティナブルメタル 電気炉製鋼の世界】
出版社:グッドブックス/判型など:B5判 112ページ/価格:2200円(税別)
☆写真展情報
山崎エリナ写真展:『鉄に生きる サスティナブルメタル 電気炉製鋼の世界』
開催日:8月17—23日
場所:新潟県長岡市 アオーレ長岡
【略歴】山崎エリナ(やまさき・えりな)兵庫県神戸市出身。1995年渡仏、パリを拠点に3年間の写真活動に専念する。40カ国以上を旅して撮影。国内外で写真展を多数開催。海外での評価も高く、ポーランドの美術館にて作品収蔵。ダイオウイカで話題になったNHKの自然番組ではスチールカメラマンとして 同行し深海を撮影した。18―19年には「インフラメンテナンス写真展」を福島、仙台、東京ビッグサイトにて開催。写真集に『アイスランドブルー』『千の風 神戸から』『ただいま おかえり』『三峯神社』『インフラメンテナンス ~日本列島365日、道路はこうして守られている 』『トンネル誕生』『Civil Engineers 土木の肖像』などがある。

ニュースイッチオリジナル

COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

工場に足を踏み入れたときの第一印象は「とても薄暗い」だったそうです。その上で「ガラス窓から入る光がスポットライトのように技術者たちにあたっていると感じた」と話してくれました。ものづくりの現場で働く人たちに敬意をもたれている山崎さんらしいなぁと思いました。『鉄に生きる』には、そんな山崎さんだからこそ撮影できる技術者たちの格好よさが収められています。炎の迫力や美しさはもちろんですが、技術者たちの姿の写真には私自身、特に惹かれました。

キーワード
山崎エリナ 製鋼

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