どう死ぬかは、どう生きるか。すべての孤独死したくない人へ捧げる漫画
風呂でどろどろの“スープ”になってしまった伯母の孤独死を受け、安心を得るために婚活を始めるも即挫折。「だったら 私は ひとりで生きて ひとりでしにたい」と、30代独身女性の主人公は決意する――インパクトの強い第1話から始まる漫画「ひとりでしにたい」。終活をテーマにしているが、描かれるのはそれだけではない。さまざまな社会的背景を持つ人を理解し、周囲との関わり方や人生を見直していくといった「どう生きるか」にも重点を置き、ユーモアを交えながらテンポよく展開する。作者のカレー沢薫氏に話を聞いた。(聞き手・昆梓紗)
あらすじ
主人公、山口鳴海35歳、独身。職業・美術館の学芸員。アイドルオタク。バリバリの「キャリアウーマン」だったあこがれの伯母さんが、人知れず孤独死。これを受け人生を考え直した鳴海は「婚活」より「終活」を選び、同僚、家族との交流を経て、価値観を変えていく。
終活は誰にでも関係あること
――まずは、第24回 文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞の受賞おめでとうございます!受賞を知っていかがでしたか。
とにかく嬉しかったです。今までこういった賞をもらったことがなかったので…。
――なぜ終活をテーマにした漫画を描こうと思ったのでしょうか。
この漫画を描き始めたのは30代後半。興味があることを描こうと思い、終活をテーマに決めました。当時、将来に対する不安があったけれど、終活はまだ先の話だと考えていました。でも、今の生活も最終的には死に向かっています。終活というと老人向けのイメージがありますが、そうではなく、誰にでも関係のあることです。
――孤独死や終活といった内容を描くにあたり、気を付けていることは。
孤独死はインパクトがある話題ですが、それだけで終わらないことが必要。漫画でも取り巻く状況や過程に関してしっかり描くことにしました。
また、「死」を扱ってはいますが、暗くなりすぎないようにしています。漫画なので、途中で読むのが嫌にならないようにユーモアを入れつつ読みやすくしています。どんな時でもユーモアは必要なので。
――檀家のシステムや、介護など、ノウハウも織り込んでいます。
漫画を描くにあたっていろいろな関連書籍を読みましたが、ノウハウに終始しているコンテンツが多い印象です。「ひとりでしにたい」も、役立つものにしたいという気持ちはありますが、あまりそれだけにならないようバランスに気を付けています。
終活はノウハウだけではどうにもならないなと感じました。「ひとりでしにたい」というタイトルですが、(孤独死を避け、満足いく最期を迎えるには)結局他者との関係からは逃れられません。
――他者を理解し、関わり方を見直すために、周囲の経済状況や家庭環境などに目を向けるシーンにかなりのページを割かれていますね。主人公の鳴海は終活する過程で、初めて自分が恵まれた環境で育ってきたと知ります。私も「危機感パラメータゼロの女」だなと、グサリときました…。
鳴海は恵まれた家庭環境で育っていますが、そのために危機感がない。私自身も同じように育ってきたので、「今まで何とかなってきたし、これからも何とかなるだろう」とどこかで思ってしまっているところがあります。
――他者との関わりを象徴する話として、「孤独死や事件が起きるのは他人を家に入れない家だ」という話がありましたね。(第13話)
この話は反響が大きかったです。介護に関わる方も、他人に助けを求めること、他人を入れることの重要性を強調していました。家族内だけで全てやろうとするのは無理があります。
――漫画では、自分の終活の前にまずは親、という展開になっています。でも親に対して、終活は言い出しにくいですよね。
私ですらまだキチンと話せていないので…。世の中全体で終活のイメージを変えていかないとだめだなと思います。終活は残される人のためでなく、自分のため。元気なうちに周囲と話しておくことが重要です。死んでほしい、というわけではなく、よりよく生きるポジティブな提案として話ができればと思います。
実際、死に関することは労力がいります。その対応に疲れ果ててしまう。そうならないためにも早めに、具体的に考えるべきだと思います。
――終活を考えることは「どう生きるか」を考えることでもあると感じました。
人は生きたように死にます。死をこうしたい、と考えることは、どう生きたいかに関わってきます。死に至るまでの過程をどうするかを考えることも終活です。
実際の孤独死を調べると、心身を病んだり、生きることが苦しくなったりしている最期が多い。死んだあとのことなんてどうでもいい、周りのことなんて考えられない、という声もよく聞きます。死後を考えられるのは余裕のある人というのも事実です。死んだあとのことを考えられるように、余裕のある人生を送れるようにすることも大事です。
コミュニティに参加すればいいわけじゃない
――読者はどのような人が多いのでしょうか。
鳴海と同年代、かつ女性が多いようです。主人公が女性だし、どうしても女性寄りの展開になってしまうのですが。でも、男性にもぜひ考えてほしいテーマです。孤独死は男性の方が多いので。なぜ男性の方が多いのかはこれから書いていく予定です。
――反応は。
意外とみんな興味があったのだな、と思いました。気になってはいたけれど気軽に知る術がなかった面もあるのでは。
また、結婚に対する信頼感がまだまだ強いと感じました。私自身は結婚していますが、「なぜ結婚しているのにこんなテーマを書くのか」といった意見をもらうこともあります。結婚しているからといって(将来が)安心というわけではありません。なので、結婚はリスク回避ではないというのを第1話で描きました。独身、既婚それぞれが終活を考えていく必要があります。
――漫画のほかにたくさんのコラムを手掛けていますが、共通点はありますか。
自分が引きこもっていてコミュニケーションがそれほど得意ではないということもありますが、そういう人たちがどう楽しく生きるかを考えていきたいと思っています。引きこもっている状況でも、何か面白いことを見つけて書いていきたい。
また、自分のように引きこもっている人の方が孤独死しやすい。調べれば調べるほど、(孤独死)“予備軍”だなと感じます。
――そういった点も「ひとりでしにたい」を描いていく動機になっているのですね。
孤独死を防ぐために、コミュニティを作って一緒に住めばいいという意見もあります。でも、コミュニケーションが好きではない人間がコミュニティに入っても孤立する場合もあるし、同居人がいても孤独死していたという例もあります。また、孤独死しないために苦痛を感じながらコミュニティで生活していくのもどうかと思います。
――解決策は見えてきていますか。
見守りサービスなどをもっと気軽に利用できるようになればと思います。もっとライトな交流というか、安否確認だけでもいいようなサークルなどがあれば。リアルではコミュニケーションが難しいけれど、ネットならOKという人もいる。それぞれの特性にあった補助やコミュニケーションツールができることが理想です。
現在、孤独死しないためのサポートは増えていますが、調べる意識の高い人でないとキャッチできないことが問題です。
――今後描いてみたいことは。
具体的な終活についてまだ描けていないので、そこを描いていきたいです。例えばお金に関しても、「老後の資金は2000万円必要」と言われても、人によって生活にかかるお金は違う、などという話もありますよね。
そもそも社会のことにあまり興味がなかったのですが、コラムを書いていくと知らなければならないこともありました。今の時代に則したものを描いていきたいです。
【略歴】 1982年生まれ。漫画家、コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)でデビュー。主な漫画作品に『猫工船』(小学館)、『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)。エッセイ作品に『負ける技術』『非リア王』(ともに講談社文庫)、『ひきこもりグルメ紀行』(ちくま文庫)、『一億総SNS時代の戦略』(秋田書店)などがある。多数の媒体で連載を抱える。山口県在住。