JR東日本が実証中。豊かに感情表現できる「アバター接客ツール」コロナで飛躍

連載・店舗DX―コロナ下の答え #04

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JR大宮駅で遠隔接客システム「TimeRep」の実証実験が始まった

「こちらの改札を背に右手に進んで頂きますと、大宮駅西口に出ます。さらに左手に進みますと『そごう大宮店』でございます」。駅員のアバター(分身)が縦長のモニタ-に地図を示しながら駅の近くにある商業施設の場所を利用客に案内した。JR大宮駅中央北改札で3月に始まった遠隔接客ツールの実証実験だ。改札業務の4割を占める周辺施設や乗り換えなどの案内をバックオフィスの駅員が遠隔で対応する。この実証実験の目的には業務の効率化とともに、コロナ禍による非接触需要への対応がある―。

UsideU(ユーサイドユー、東京都中央区)はこの遠隔接客ツール「TimeRep(タイムレップ)」を法人向けに提供する。コロナ禍で導入が増えており、4月中に計80店舗に設置される予定。さらに今秋までをめどに計500店舗への設置を見込む。同社は2017年の創業時から、遠隔接客ツールの開発に注力し、商業施設や銀行などに地道に導入を進めてきたが、これまではなかなか実験的な利用の域を出なかった。その中で、コロナ禍をきっかけに飛躍しようとしている。(取材・葭本隆太)

EC化率は15%程度に過ぎない

「ほとんどの買い物はリアルの現場で起きている。その体験をデジタルで変革したかった」。ユーサイドユーの高岡淳二社長は、タイムレップを開発した理由をそう説明する。

高岡社長は09―14年に中国・アリババの日本法人で電子商取引(EC)サイトに携わっていた。しかし、EC化率は全世界で15%程度に過ぎないことから、残り80%以上を占めるリアルの体験をデジタルでよりよくしたいと次第に考えるようになった。さらに、07年ころに従事していた人材派遣業向けコンサルの経験から、販売・案内・接客業務に従事する人たちの働き方を変えたいとも考え、遠隔接客ツールの構築を決めた。

UsideUの高岡淳二社長

ただ、当時は漠然とコミュニケーションロボットをイメージしていたという。その中で、アバターを活用した遠隔接客ツールに行き着いた背景には、14―16年に留学した米国のデザインスクールでの学びがある。

「リアルの現場で(接客を受ける)顧客に問題なく使ってもらえるデザインや仕組みを学ぶため、留学しました。(その学びを経て)技術先行ではなく、顧客を一番に考えた仕組みの最適解としてアバターによる遠隔接客ツールにたどり着きました」。

タイムレップではオペレーターが遠隔から多拠点への販売や案内、接客をアバターに扮して行える。パソコン一つで操作でき、オペレーターは時間を有効に活用できる。その中で、顧客に受け入れられやすいように作り込んだ機能の一つが、アバターのわかりやすい感情表現だ。オペレーターの表情をパソコンのカメラで捉え、顔認識技術で解析してオペレーターの表情を一定程度、アバターに反映しつつ、難しい表情は一切排除する。その上で、パソコンのボタンを押すことで「うなずき」や「手を振る」「考え中」など8種類の表現ができるようにした。

「感情表現が得意な人は多くありません。それが苦手でも伝えられる設計を実現しました」。

実際、JR東日本が遠隔接客ツールとしてタイムレップを選んだ決め手は、この感情表現の機能だった。JR東日本大宮支社の営業部に所属する岩崎岳夫企画課長は「接客において表情は重要なファクター。多様な表情で接客できる利点が(複数の遠隔接客ツールの中でタイムレップを選んだ)ポイントでした」と説明する。

実験的で興味本位だった

タイムレップ(旧コラボロイド)が最初に導入されたのは、ハウステンボス(長崎県佐世保市)が運営する「変なバー」だった。無人店舗で、その接客をアバターに扮したスタッフが遠隔で行った。これをきっかけに関心が集まり、30社以上に導入が進んだ。とはいえ、その多くは実験的で興味本位の面があったという。それを変えたのがコロナ禍だ。

「コロナ禍でZoom(ズーム)の利用が広がるなど、遠隔によるコミュニケーションのハードルが下がりました。非接触の需要も高まり、遠隔接客ツールを導入しようという流れが出てきました。昨年10月ころから問い合わせが増えています」。

時を同じくして、高岡社長はタイムレップが持つ価値に改めて自信を持った。常盤薬品工業が展開する化粧品の店頭販売で20年11月から21年3月にタイムレップを実証した結果、売り上げ向上と人員効率化の両立に成功した。具体的には1人のオペレーターが3つの店舗を担当しつつ、来店客に積極的に声かけすることで、実施前に比べて売り上げが2割上がったという。

化粧品の売り場で「TimeRep」の実証実験を行った結果、売上向上と人員効率化に成功した

ユーサイドユーはこうした効果の実例を武器に、コロナ禍による非接触需要の拡大という追い風も受けながら導入提案を加速させている。とはいえ、普及への道を歩み出したばかり。機能もまだまだ完全ではない。例えば、接客ツールを設置した場所ごとによく聞かれる質問内容を把握し、シナリオを編集して、顧客がスクリーンにタッチしながら自動で回答が得られる機能の構築を21年中に予定する。

高岡社長はそうした機能拡充などを積み重ねた先にある未来を力説する。

「(1人が遠隔から複数の拠点の案内・接客業務を行える)タイムレップは省人化を図りつつ、手厚い案内・接客サービスを提供できます。特に地方の店舗などは、これから人件費を下げざるを得ないでしょう。人が少なくなった地方の店舗でもタイムレップによって(都会と)同様のクオリティーのサービスを提供できる。そうした未来をイメージしています」。

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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局DX編集部
ニュースイッチ編集長

Zoomなどのオンラインでのコミュニケーションは当然のように受け入れていますが、アバターを通したコミュニケーションについては、感情表現を豊かにできる利点に納得しつつも、個人的にはまだ、どこか戸惑ってしまう部分があります。今後、どのようにアバターを通したコミュニケーションが社会にどのように浸透していくのかが気になります。

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