政府の圧力が増す地銀再編はどこまで進む?SBI・北尾氏の見立ては
人口減少による地域経済衰退、長引く日銀のマイナス金利政策。そこに新型コロナウイルス感染症拡大が加わり、地方銀行を取り巻く経営環境は一段と厳しくなっている。こうした中、政府や日銀が地銀再編を促す法律や制度を打ち出し、再編への“圧”が強まっている。最大10行に出資して地銀連合の構築を目指すSBIホールディングス(HD)も存在感を増している。2021年―。こうした流れが大きなうねりになるかが注目される。
<特例法で合併促進>提携も一つの選択肢
地銀が苦境に立たされる中、政府は2020年11月に地銀同士の合併に独占禁止法を適用しない特例法を施行。10年間の時限措置だが、同一県内の地銀同士が合併しやすくなる。地銀再編を促す地ならしが着実に進んでいる。
これに歩調を合わせるように、日銀も同11月、経営統合または経費削減に取り組んだ地銀や信用金庫などに向け、日銀当座預金の金利を年0・1%上乗せする制度を発表。22年度までの限定だが、日銀が地銀再編にインセンティブを与える異例の措置と言える。
SBIHDの地銀連合構想は、島根銀行を皮切りに出資先が7行まで増えた。SBIHDが資産運用受託などを通じ、業績が低迷する地銀の経営改善を支援する。最大10行まで投資する方針。こうした取り組みによる成果が再編への機運を高める可能性もある。
ただ多くの地銀は慎重な姿勢だ。全国地方銀行協会の大矢恭好会長(横浜銀行頭取)の言葉が象徴的だ。「再編や統合が体質を強化する唯一の解とは思わない」とし、その上で「統合には時間がかかる。銀行同士や他業種との提携が選択肢になる」とみている。
20年10月に業務提携した静岡銀行と山梨中央銀行。柴田久静岡銀頭取は経営統合は想定していないとし、「統合が唯一の方法ではなく、業務提携の方が効果は出やすい」との見解を示す。
地銀をめぐる動きは当面、即効性が見込める業務提携が中心になりそうだ。ただ、合併特例法や日銀の制度を見極めつつ、経営統合を検討する動きが広がるだろう。
<目的ではなく手段>価値高める最善策探る
各地域の主要地銀トップは、現時点で踏み込んだ再編に距離を置いている。
常陽銀行と足利銀行を傘下に置くめぶきフィナンシャルグループの笹島律夫社長(常陽銀頭取)は「経営統合は目的ではない。地域の実情に応じて金融機能を果たす手段」と、統合ありきの議論を避ける。仙台銀行ときらやか銀行を傘下に持つじもとホールディングス(HD)は、20年11月にSBIHDと資本業務提携した。鈴木隆会長(仙台銀頭取)はSBIHDを「ベストパートナー」とする一方、粟野学社長(きらやか銀頭取)は「あくまでもじもとHDとしてやる」という。
名古屋銀行、愛知銀行はともに再編に否定的だ。愛知銀の伊藤行記頭取は「統合が必ずしも最善ではない」と言い切る。池田泉州ホールディングスの鵜川淳社長兼最高経営責任者(CEO)は「統合は先行コストも発生する。現在の低収益ではその回収が伸びる」と指摘し、再編以外の道筋の模索を優先する見通しだ。
十八親和銀行、福岡銀行を擁するふくおかフィナンシャルグループ。柴戸隆成会長兼社長はさらなる再編について「ステークホルダーに説明できれば、やぶさかではない。ただ合併や統合は時間がかかる」という。
「グループ価値を高める選択肢で有効な手段」(きらぼし銀行の常久秀紀専務)、「経営基盤を強固にし、安定させるには理にかなっている」(中京銀行の永井涼頭取)とし、再編ありきでないながらも、手段の一つとして有効とする向きもある。
<INTERVIEW>SBIホールディングス社長・北尾吉孝氏
地銀再生、質的変換目指す
全国の各地銀に再編への圧が強まる中、存在感を増しているのがSBIホールディングス(HD)だ。進めている地銀との連合構想では、提携先を最大10行までとし、システム共通化やフィンテック(金融とITの融合)による新たなサービス展開を支援、苦境にある地銀の再生を目指す。「銀行は質的変換を進めなければ生産性が上がらない」とするSBIHDの北尾吉孝社長に今後の展望を聞いた。
―地銀連合構想の狙いは。
「各地銀が自行の現状を徹底的に分析し、当面の問題をどう解決するかを支援することだ。銀行同士を合併しても、経済規模は拡大するが、規模の経済性という点でみると、生産性が高まるとは思えない。銀行を変えるには質的変換がないと難しい」
―今後、構想実現に向けて取り組みをどう進めますか。
「フェーズ1は、10行程度の地銀との資本業務提携。質的変換につながる人材を派遣するなど経営資源を活用してもらいながら、銀行の業容を広げ業績を向上させる。フェーズ2は、提携した全ての銀行が大幅に業績を向上させる実績づくりの期間だ。『一燈照隅、萬燈照国』という言葉にあるように、10行は一燈を指す。10行の業績向上を通じ、資本業務提携していないほかの地銀を感化し、自己変革を促したい」
「フェーズ3では、地銀特有の顧客基盤や地域性などは残した上で、IT技術を使って全国・海外展開を視野に領域を広げる。地銀への支援はこれで完結する」
―地方創生につなげることも同構想の狙いの一つですね。
「地銀の収益力強化だけでは地方創生への効果は薄い。四つの経済主体である地域住民、産業、地方公共団体、金融機関の活性化が必要だ。コロナ禍で(実質無利子・無担保融資で)銀行の貸出残高が増えている。3年後にどうなるかが問題。不良債権の山になってはどうしようもない」(高島里沙)
DATA/与信費増で当期減益
地銀の苦境は決算の推移からも見て取れる。金融庁がまとめた「地域銀行の2020年3月期決算の概要」によると、第一地銀、第二地銀など103行の実質業務純益は1兆2751億円。前期比4.3%増だが、近年のピークである07年3月期比36.3%減。当期利益は前期比10.2%減の6901億円で、近年のピークの16年3月期比では41.2%減となっている。与信費用の増加などが主な要因だ。
背景には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が大きい。東京商工リサーチによると、国内108銀行の20年4―9月期の貸倒引当金は前年同期比20.4%増の3兆1819億円だった。
このうち、第一地銀は同7.2%増の1兆5390億円、第二地銀が同10.1%増の3236億円。貸倒引当金を積み増したのは第一地銀が47行、第二地銀が25行になっている。
KEYWORD
<日銀特別当座預金制度> 条件を満たした地銀や信用金庫などに対し、日銀の当座預金に年0.1%の上乗せ金利を支払う。2022年度までの時限措置。条件の一つは、23年3月末までに経営統合の実施を決めた場合で、地銀再編を促す狙いとみられる。もう一つの条件は経費削減。20―22年度決算のOHR(経費率)を19年度決算実績より、一定比率以上改善することが必要になる。一部の地銀では経営統合ではなく、こちらの申請に意欲を見せている。地銀再編の起爆剤になるかが注目される。