「北陸新幹線」延伸1年延期、福井とJR西日本が死守したい“経済時刻表”
2023年春を予定していた北陸新幹線の敦賀延伸開業が1年程度遅れる見通しとなった。北陸各都市と大都市圏の往来を活発にし、観光・ビジネス両面で交流人口の拡大が期待されてきた新幹線の開業が遅れるという事態に、地元関係者らは落胆を隠せない。
新幹線駅周辺では、すでに開業に備えて再開発が始まり、観光客やビジネス客を狙ってホテル建設も相次ぐ。開業後に並行在来線区間を運営する第三セクター鉄道会社でも移管に向けて、人材確保や教育などの準備が本格化。1年の遅れは経済的な打撃も大きい。
新幹線開業によって福井から東京には直通列車が運行し、現在より30分程度短い3時間以内で到達する。敦賀での乗り換えはあるものの、金沢や富山から大阪・名古屋への到達も30―40分程度短くなる見込みだ。速達性や利便性が高まれば、地域の魅力次第で、人の流動は活性化する。
北陸はかねて関西との結びつきが強い。北陸新幹線は敦賀以西、新大阪までの延伸が計画され、着工は未定ながら、環境影響評価の手続きを進めている。建設財源さえ手当てできれば、23年度の着工も視野に入っている。
敦賀延伸開業を予定していた23年春は、JR西日本にとって、25年の大阪・関西万博開催を念頭に、近畿圏の在来線運行体系を見直す契機でもあった。同時期に大阪駅北側の東海道支線地下化が完成し、再開発地区内には大阪駅の新ホーム「うめきた地下駅」が開業する。
敦賀発となる北陸特急の一部も同ホーム経由で、関西空港やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)へと乗り入れることが可能となる。同ホームは31年には大阪市内を南北に貫く新線「なにわ筋線」ともつながる。JR西首脳も「開業を機に、さまざまな運行体系を検討できる」と期待を寄せていた。
福井県にとって、北陸新幹線の効果は京都・大阪まで延伸した際に大きく出る。このため国に対し、敦賀開業の遅れで受ける地元ダメージに十分な配慮を求めつつ、「大阪延伸の計画に遅れが出ないように」と杉本達治福井県知事は強く注文している。
最も懸念材料「在来線」
最も懸念するのが並行在来線準備会社の関係者だ。工事が完成し、新幹線が走りだすと、石川県境―敦賀の現18駅、79・2キロメートルをJR西から引き継いで経営する。同路線は1日約1万9000人が利用している。
この基幹の足を守るため県は念を入れて他地域の通例より1年早く19年8月に準備会社を立ち上げた。「開業時から安全・安定の運行を確実に果たすため」と準備会社の西村利光社長は話す。県と沿線の市町・民間で一次出資金5億円を捻出。県が中心となり21年1月に本格会社の経営計画を策定し、関係各者の負担調整を経て資本金20億円に増資する。そして本格会社として始動する段取りだ。
プロパー社員100人を採用する計画で、20年春には1期生32人が入社。来春の2期生35人も内定している。開業遅れで、収入がないまま1年で5億2000万円の人件費などの負担がのしかかる計算だ。加えて経営計画の策定が足踏みし、20億円に増資する協議にも遅れが生じそうだ。余裕のない運転資金に逼迫の危険が迫る。西村社長は計画外の費用の全面的な補填と、並行在来線に対する支援制度の創設を、国にあらためて求めている。
都市交通が専門の川本義海福井大学教授は「社会的には電車を交通の軸として使えば使うほどメリットが出る」と指摘し、並行在来線の成否を注視する。開業遅れの影響をいかに乗り越えるかが、焦点となる。
活発化が期待される街づくりにも、水を差す。福井経済同友会は新幹線開業のお披露目を狙い、経済同友会全国大会の24年4月開催を招致した。1000人規模の経営者が全国から集う。「予定はもう変えられない。開業遅れが1年で済めば間に合うが」(福井同友会事務局)と、憤りとあきれ顔が入り混じった表情だ。
福井市、福井商工会議所などが出資する、まちづくり福井(福井市)は、福井駅前ビル「ハピリン」の屋外広場で地元の食文化イベントを開くなど、中心市街地のにぎわい創出に取り組んでいる。
地元商店主らとともに20年度から新幹線開業に備えて外国語対応のパンフレット、便利なスマートフォン用アプリの作成などに着手したところ。「整えたものをどう維持するか、先に遅らせるべきか、悩ましい」と、同社の岩崎正夫社長は話す。