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多忙極まる設計者が「サイズ公差」「幾何公差」を設定できるのはなぜ?

おすすめ本の抜粋「設計者は図面で語れ!ケーススタディで理解する幾何公差入門」

公差設計の重要性

現在の設計者を取り巻く環境は日々変化しているとともに、多岐にわたる仕事をこなすことが要求されている。製品設計を例に取ると、初期の製品仕様から図面作成・解析・試作・生産工程検討といった主体業務だけでなく、特許出願・標準化・資料整理といった付帯業務まで幅広くこなさなくてはならない。

そうした多忙な環境下において、設計者はサイズ公差・幾何公差をどのように設定しているのだろうか? 従来の類似部品の図面から引用している、KKD(勘・経験・度胸)で決めているといったことになっていないだろうか? 設定した公差の値によって製品コストや性能・品質が大きな影響を受けることを理解しているだろうか?

公差設計に関する技術力を高めることが、ひいては製造業の競争力向上につながるといっても過言ではない。

公差設計と幾何公差

工作機械の性能がどんなに高まっても、同じ条件の下で加工した部品の寸法や形状には微小な誤差が、つまり「ばらつき」が発生する。例えば、合成樹脂の射出成型品を作る場合、成型機を同じ条件で動かし続けても、気温や湿度といった環境の変化、金型の摩耗などによって成型品は影響を受ける。組立においても、手作業か自動かに関わらず組付誤差は生じる。

この誤差を小さくする取り組みが、設計・製造の両面から行われるが、それでもゼロにはならない。基本的に、この誤差は組立品の目標とする寸法などを中心にばらつく。このばらつきの許容範囲を、製品の品質やコストなどを総合的に考えて決めるのが公差設計である。

公差設計の中心となるのは、この「公差の値を決めること」ではあるが、ここで終わっては公差設計の実力は向上しない。公差を設計図面に表記し、製造して部品・製品が出来上がったら、設定した公差の値が適切だったかどうか評価し、次の製品設計へとフィードバックする仕組みが必要となる。これが『公差設計のPDCA』である(図1)。

図1 公差設計のPDCA

公差設計のPDCA

品質やコストなどを総合的にバランスよく考えて公差の値を決める公差計算は、PDCA の「Plan」に相当する。

公差計算結果は設計者の意図であり、後工程に正しく伝えなければならない。その伝達手段が図面である。図面に公差の情報を正確に表現することがPDCAの「Do」に相当する。

次に、製作された部品が設計図面通りに出来上がっているかどうか、組み立てられた製品の状態が設計目標通りになっているかどうかを確認するのがPDCAの「Check」に相当する。ここでは必要十分なデータを採取し、そのデータが公差に対してどのようにばらついているかを把握することが必要になる。

最後に、収集した情報を分析し、必要なら対策をとる、あるいは次期開発製品における公差設計へと反映させるのがPDCA の「Act」である。設定した公差値が工程能力に見合ったものだったか、公差の表現が適切だったのかを確認し、不十分な点を修正することになる。

設計意図を正確に伝達できる幾何公差こそ、まさに「Do」において真価を発揮するためのものである。この幾何公差による「Do」を含めた公差設計のPDCAを確実に回していきながら、公差の「質」を向上させていくことが非常に重要な取り組みとなる。
(「設計者は図面で語れ!ケーススタディで理解する幾何公差入門」より一部抜粋)

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<書籍紹介>
不要な幾何公差をなくすために、設計者は意図を明確にし、適切に幾何公差を使い、生産側(特に測定方法)の実態を知る必要がある。本書では図面を幾何公差化するための、公差設計の進め方を事例で紹介。測定方法は写真とともに解説する。

書名:設計者は図面で語れ!ケーススタディで理解する幾何公差入門 公差設計をきちんと行うための勘どころ
監修者名:栗山弘
著者名:栗山晃治・北沢喜一
判型:A5判
総頁数:196頁
税込み価格:2,640円

<監修者>
栗山 弘(くりやま・ひろし)
株式会社プラーナー 会長
1976年、セイコーエプソン入社。24年間、開発・設計部門でウォッチや映像機器などの世界初商品の開発に従事。2000年に設計・技術研修センター部長に就任。同社在籍中およびそれ以降を含め約300件の特許を出願する。2001年にプラーナーを設立(社長)、2012年から会長。
高度ポリテクセンターや信州大学のほか、約100社の上場企業内で公差解析や設計教育で指導実績を持つ。企業にて約1,200テーマの実務課題解決を支援し、当該企業からその成果事例も多数発表されている。3次元設計能力検定協会理事なども務める。おもな著書に「3次元CADから学ぶ機械設計入門」(森北出版)、「公差設計入門」(日経BP)などがあるほか、「機械設計」(日刊工業新聞社)や「日経ものづくり」(日経BP)など技術雑誌への寄稿が多数ある。

<著者>
栗山 晃治(くりやま・こうじ)
株式会社プラーナー 代表取締役社長
3次元公差解析ソフトをベースとした大手電機・自動車メーカーへのソフトウェア立ち上げ・サポート支援、GD&T企業研修講師、公差設計に関する企業事例の米国での講演などにより実績を重ねる。3次元解析ソフトを使用したGD&T実践コンサルなど、さらなる新境地を開拓している。著書は「強いものづくりのための公差設計入門講座 今すぐ実践!公差設計」(工学研究社)、「3次元CADから学ぶ機械設計入門」(森北出版)、「3次元CADによる手巻きウインチの設計」(パワー社)、「機械設計2015年5月号 特集 グローバル時代に対応!事例でわかる公差設計の基礎知識」(日刊工業新聞社)など、多数。

北沢 喜一(きたざわ・きいち)
株式会社プラーナー シニアコンサルタント
セイコーエプソン株式会社にて、時計の外装設計・技術に長年携わり、開発設計における幅広い視野での知識と経験を持つ。その経験を活かし、2017年より株式会社プラーナー シニアコンサルタントとして、数多くの企業・公的機関にて公差設計、幾何公差の教育およびGD&T実践指導などを行う。

〈イベント関連書籍のご案内〉
◇『設計者は図面で語れ!ケーススタディで理解する公差設計入門』
株式会社プラーナー 編、栗山晃治・木下悟志 著
A5判、176ページ、本体2,200円+税
2016年8月発行

◇『実用設計製図 幾何公差の使い方・表し方 第2版』
小池忠男 著
B5判、208ページ、本体2,400円+税
2019年4月発行

◇『“サイズ公差”と“幾何公差”を用いた機械図面の表し方』
小池 忠男 著
A5判、214ページ、本体2,200円+税
2018年1月発行

◇『これならわかる幾何公差』
小池 忠男 著
A5判、180ページ、本体2,200円+税
2013年3月発行

★詳しくはコチラ⇒https://pub.nikkan.co.jp/html/online_seminar2#books

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