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なぜ電線は雨ざらしでも平気なの? 知ってるようで知らない電線の秘密

おすすめ本の抜粋「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい電線・ケーブルの本」

雪にも負けず 風にも負けず 自然現象に立ち向かう助っ人たち

裸電線は、その名のとおり、自然からの影響に対して無防備で、ただ襲ってくる自然現象を黙って受けるしかありません。そういった無抵抗な電線ですが、電線に作用する現象からの影響を緩和するために働く助っ人たちが多くいます。

送電線の周りに雪が降って着氷してしまうと、着氷した電線の断面が非対称になるため、そこに風が当たると揚力が発生し、電線が上下に運動する現象が発生します。それをギャロッピングと呼びますが、その現象は振幅が大きく持続時間も長いので、相間の離隔距離が保てなくなる危険性が生じます。そういった事態を避けるため、相間スペーサが設置されます。また、着氷によって生じる電線自体のねじれ防止に対しては、ねじれ防止ダンパが活躍します。さらに、電線に着氷した氷が脱落する際には、電線が跳ね上がる現象が生じます。それをスリートジャンプと呼びます。この現象が発生すると電線が混触する危険性がありますので、基本的に電線に着氷しないような対策が必要です。具体的には、雪が自然にすべって落雪するように、一定間隔で離着雪リングを取り付ける方法がありますし、氷雪を溶かす融雪線材も助っ人となります。融雪線材は、送電線に流れる電流によって発生する磁界を利用して、融雪線材に生じる鉄損によって発熱した熱で電線を暖めて、着氷の防止を図ります。

イラスト 小島サエキチ

送電線が微風を受けている際にも問題が生じる場合があります。風速が秒速5m以下の穏やかで一様な風が電線に当たると、電線の背後にカルマン渦が生じ、電線に上下運動を起こします。この運動によって、電線の支持部では繰り返し力を受けるため、最終的に疲労破壊に至ります。それを防止するために、支持部周辺に電線と同一の材料を巻きつけて電線を補強するアーマロッドや、電線に振動エネルギーを吸収するダンパを取り付けます。

イラスト 小島サエキチ
イラスト 小島サエキチ
●着氷対策のための離着雪リング
●氷雪を溶かす融雪線材
●風対策のアーマロッドやダンパ

(「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい電線・ケーブルの本」より一部抜粋)

<書籍紹介>

電気・通信分野では多くの種類の電線やケーブルが用いられている。材料や部品の柔軟性や耐久性は非常に重要で、不適切な取り扱いや劣化を見落とすと安全性にも関わる。本書では、この電線とケーブルの材料や種類、災害対策、補助材、検査・保守について、役立つ情報を紹介する。

書籍名:今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい電線・ケーブルの本
 著者名:福田 遵
 判型:A5判
 総頁数:160頁
 税込み価格:1,650円

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
日刊工業新聞ブックストア

<執筆者>
福田 遵(ふくだ じゅん)
技術士(総合技術監理部門、電気電子部門)
1979年3月東京工業大学工学部電気・電子工学科卒業
同年4月千代田化工建設(株)入社
2002年10月アマノ(株)入社
2013年4月アマノメンテナンスエンジニアリング(株)副社長
(社)日本技術士会青年技術士懇談会代表幹事、企業内技術士委員会委員などを歴任
日本技術士会、電気学会、電気設備学会会員
資格:技術士(総合技術監理部門、電気電子部門)、エネルギー管理士、監理技術者(電気、電気通信)、宅地建物取引主任者、ファシリティマネジャーなど

著書:『トコトンやさしい熱利用の本』、『トコトンやさしい電気設備の本』、『トコトンやさしい発電・送電の本』、『トコトンやさしい実用技術を支える法則の本』、『技術士第一次試験・第二次試験「電気電子部門」受験必修テキスト第4版』、『技術士第一次試験「基礎科目」標準テキスト第4版』、『例題練習で身につく技術士第二次試験論文の書き方第5版』、『技術士第二次試験「技術士第二次試験「電気電子部門」過去問題〈論文試験100問〉の要点と対策』、『技術士第二次試験「総合技術監理部門」標準テキスト』、『電設技術者になろう!』(日刊工業新聞社)等

<目次(一部抜粋)>
第1章 どんなものが電線材料となっているのか
電気を長距離に大量に送るために「電力損失を少なく安く送る条件」/長い線状になるための条件は?「電線材料が持つべき特性」/電線断面を有効に利用するには「表皮効果による効率低下への対策」

第2章 裸でがんばる電線たち
遠くの発電所から電気を送る「送電線と送電鉄塔の構成」/送電鉄塔頂部の余った電線は何?「架空地線の役割」/雪にも負けず風にも負けず「自然現象に立ち向かう助っ人たち」

第3章 電力と信号を送るケーブルたち
都市部の電力幹線を担うケーブル「地中送電線用のケーブル」/ケーブルを構成する材料たち「ケーブル材料の役割確認」/電柱での電線の使い分け「屋外配電用電線の種類」

第4章 情報通信社会を支えるケーブルのいろいろ
情報をメタルで交信する「対よりと星形カッド」/屋内使用の情報伝送用ケーブル「FCPEVとUTP」/大量情報伝送のために「光ファイバケーブルの構造」

第5章 巻線と使用環境に対応した電線たち
巻かれて生きる電線たち「電気機器内でひそかに働く電線」/樹脂を焼き付けられた電線たち「いろいろなエナメル線」/火事でも設備を動作させるための電線たち「耐火電線と耐熱電線」

第6章 身を挺して電線を守る配線材たち
電線を守る保護管たち「堅牢な金属管の特性」/美観向上のための電線管「柔軟性が高い合成樹脂管」/電線地中化に貢献する配管「波付硬質合成樹脂管」

第7章 電線・ケーブルの布設工事とは
鉄塔に送電線を架線する「延線工事と緊線工事」/ケーブルを布設する場合の配慮「管路配線とケーブルラック配線」/ケーブル布設にはやさしさを「布設工事の気遣いポイント」

第8章 維持管理とリサイクルの手法
電線・ケーブルの異常箇所を発見する「巡視と事故点測定」/電線・ケーブルの健全性の確認方法「劣化診断の手法」/生物の習性からケーブルを守る「咬害や繁殖習性との戦い」

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