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「足元の引き合いは旺盛」。増える半導体露光装置の需要、キヤノンの対応は?

武石洋明氏に聞く

グループから100人超応援

―i線(波長365ナノメートル〈ナノは10億分の1〉)、フッ化クリプトン(KrF)両装置の2020年の販売台数は前年比40台増の124台を見込んでいます。好調の要因は。

「19年はメモリーの投資がスローになった時期もあったが、20年は堅調に推移した。(微細化で優れる極端紫外線〈EUV〉露光装置が注目を集めるが)必ずしもEUVで製造した最先端の半導体だけが市場で求められているわけではない。メモリーやイメージセンサー、車載向けなど、必要とされる半導体はバラエティーに富んでいる。先端のデバイスに引っ張られる形で裾野はますます広がっていくだろう。足元の引き合いも旺盛だ」

―需要増にはどう対応しますか。

「ここ5―6年で能力アップを図ってきており、設備投資額も毎年同程度だ。現在、半導体露光装置の生産部門には、キヤノングループ内で100人以上の応援もしてもらっている」

―型を半導体ウエハーに押しつけて回路パターンを形成する「ナノインプリント」の開発をキオクシアと進めています。

「技術的には相当進歩してきている。あとは顧客に上手に使ってもらえるかどうかだ。(量産ラインへの導入に向け)最後の一押しを詰めている。すでに十分成果は出てきている」

―KrF装置のシェア拡大に向けた施策は。

「顧客の生産性をどれだけ上げられるかが重要。装置自体の精度・機能に加え、エンジニアリングサポートシステムを用いた歩留まり向上のための解析などのサービスが必要になってくる」

―コロナ禍で国をまたいだ移動に制限がかかっています。装置の設置に影響は。

「全く遅れがないわけではなかった。今後は、現地従業員への研修用途などで仮想現実(VR)ヘッドセット、スマートグラスの活用を進める。装置を組み立てやすくするために、セットアップ自体の簡略化・自動化も着実に行っていく」

―米中貿易摩擦の影響は。

「ドラスチックな影響が現在起きているわけではない。ただ、顧客側で出始めているのは確かだ。貿易法務部門と連携し、きめ細かな情報収集が必要となる」

キヤノン常務執行役員・武石洋明氏
【記者の目/ナノインプリントを軌道に】

半導体露光装置市場はキヤノン、ニコン、蘭ASMLの大手3社が占める。その中で圧倒的トップに立つのがASMLだ。同社はEUV露光装置の商用化に唯一成功し、微細化分野でも一歩先を行く。一方、キヤノンは線幅15ナノメートル以下を目指すナノインプリントで微細化需要を取り込みたい考え。ナノインプリントを軌道に乗せることが、さらなる成長につながるだろう。(張谷京子)

日刊工業新聞2020年12月9日

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