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「医療×RPA」 従事者の負担軽減へ、期待と課題

医療現場でRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)活用の重要性が高まっている。定型的な事務作業をRPAに任せることで、医療現場の生産性向上と安全性確保を実現するためだ。医療業界は慢性的な人手不足や過重労働に悩まされており、新型コロナウイルスの感染拡大が労働環境の悪化に拍車をかける。RPAを積極的に活用することで、医療従事者の負担を少しでも軽減することが求められている。(石川雅基)

【業務時間削減】

「圧倒的な労働力不足や過重労働の低減、医療ミスの回避などの観点から、日本の医療こそRPAに取り組んでいかなければならない」。医療業界へのRPAの導入を推進するメディカルRPA協会(東京都港区)の村山典久理事は強調する。

同協会は10月、RPA導入の取り組みを進めている東京歯科大学市川総合病院(千葉県市川市)が、RPAの活用で年間約2453時間の業務時間の削減効果があったと発表した。事務職員の時給に換算すると約370万円に達する。

同病院は約570床を有する総合病院。RPAは放射線科、診療情報部、薬剤部などで稼働している。患者情報の印刷やインフォームドコンセント、看護記録の確認作業など、電子カルテと連携した作業まで行っている。

同病院医療情報システム管理課の西河知也課長は「RPAの導入によって『ミスが減少した』『単純作業から解放された』など、好意的な意見が多く挙がった。今後、規模を拡大させ、削減時間を増やす」と話す。

【開発チーム発足】

名古屋大学医学部付属病院では、2019年度にRPA12体を医師の勤務時間計算支援や予算執行状況通知などに使用。年間663時間の業務時間の削減を実現した。「開発には知識が必要だが、書籍などがないため独学が難しい」(同病院事務部)と、RPAのプロジェクトチームを組織し、院内用マニュアル作成や教育研修体制の整備を進めている。

現在、RPAの数を倍増し、27体を導入した。今後も活用を進め、年間9800時間の業務時間の削減を目指している。

【人材育成課題】

RPAの将来について、メディカルRPA協会の村山理事は「人工知能(AI)と結び付く。例えばAIの読影診断の結果をRPAが入力するといった使用方法もある」と作業範囲の拡大を期待する。

一方、限られた予算の中でいかに開発・運用する人材を確保し、育成するかが課題だ。同病院事務部は「専業の開発者がいないため開発時間を十分に確保できない」と指摘する。医療分野のRPAはプログラミングや運用のミスが、医療事故など重大な危機につながる可能性があるだけに、他分野よりも高い精度が要求される。費用対効果と精度を高めるために、病院間でのノウハウの共有や合同研修の開催などの連携が求められる。

日刊工業新聞2020年12月9日

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