新たなガソリン車規制へ動く欧州、必至に市場へしがみつく自動車メーカー
2030年代にガソリンエンジン車の販売禁止へ―。日本、欧米、中国など世界で環境規制を厳しくする動きが加速している。自動車メーカーは経営資源を有効活用して環境技術やコスト競争力を磨き、各国で異なる規制への柔軟な対応が求められる。主要地域の状況を追った。
欧州で自動車を販売する主要メーカーは、欧州連合(EU)が21年に導入する車の排出ガス規制に対応できず、総額1兆8000億円の巨額の罰金を科される可能性がある―。英調査会社のPAコンサルティングは、日米欧韓の大手車メーカー13社の18年の販売実績などを基にこうした予測をまとめた。
EUは20年に域内で販売した車を対象に、メーカーごとに走行1キロメートル当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を平均95グラム以下にすることを義務付ける規制を導入した。21年には従来より、燃費測定値が悪化してCO2排出量が増える傾向にある新しい測定方法に変更される。達成できないメーカーは販売1台ごとに1グラム当たり95ユーロ(約1万2000円)の罰金が科される。
欧州ではCO2排出量が大きいスポーツ多目的車(SUV)人気の高まりもあり、19年末時点で規制の達成は難しいとの見方が広がった。ただ各社は20年に環境対応車を相次ぎ投入。独フォルクスワーゲン(VW)、仏グループPSA、トヨタ自動車、ホンダなどが新型電気自動車(EV)を発売した。今後もVW、独BMW、仏ルノー、日産自動車がSUV型のEVの投入を予定する。マツダは9月に初の量産型EV「MX―30」を発売。丸本明社長は新型EVの貢献は小さくないが「同時に既存商品のCO2排出削減も積み重ねている」とし、あらゆる商品で環境規制に対応する方針を示す。
一方、新型コロナウイルスに伴う需要の低迷を補うため、ドイツやフランスでは政府がEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の購入補助金を増額した。その影響もあり1―9月期のEUでのEVやPHVの合計販売台数は前年同期比2倍の約57万台。7―9月期では同3倍の約27万台に急進した。PwCコンサルティングの轟木光ディレクターは、これまで燃費規制などを乗り越えてきた業界の歴史などを踏まえ、「おそらく21年の規制は各社達成する可能性が大きいのではないか」と予想する。
EUでは今後、乗用車のCO2排出量の規制を25年に21年比15%減、30年に同37・5%減と段階的に引き上げる。これだけでも厳しいが、既に「グリーン・ディール」と呼ばれる政策の中でさらに厳格化する方向で動いており「新たな厳しいドラフトが21年6月までに提出される見通し」(IHSマークイットの波多野通プリンシパル)という。
PwCは現行の30年のCO2排出規制に対応するには、年間販売台数のうちEVや燃料電池車(FCV)を34―35%販売する必要があると試算。内燃機関の車だけでは到達が難しい規制だと分析する。またPwCの川原英司パートナーはEVの拡販には開発、生産工場の手配、商品環境の創出など「長い期間を要するので今から始めて法規制に着実にミートさせていく必要がある」と指摘する。
欧州ではこれまでに英国が30年までにガソリン車の新車販売を、35年までにHVも禁止対象に加える方針を示す。フランスも40年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針を表明。脱炭素化に向けた動きが加速し、各社に対応を迫っている。