飲食や物流、ビル点検...コロナはVR研修を後押しする!
コロナ禍で人が集まることが難しくなる中、仮想現実(VR)を用いた企業研修が注目を集めている。中国メーカーのヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)の価格が下がり始め、スタンドアローン(単体)型の登場もあり、初期投資の負担が軽くなった。端末で削減できた予算はコンテンツ制作に回せるようになっている。研修用VRは既存の予算をいかに効果的に使うかが求められる。効果的な遠隔人材育成を後押しする。(小寺貴之)
リアルな営業、スキルアップ
「コンサルティングや提案型営業の力を付けるためにVRは有効だ」―。360Channel(東京都渋谷区)の中島健登社長はこう断言する。
物流会社に100台規模のスタンドアローン型HMDを納入した。コンテンツは顧客の事務所を訪ねた際の提案力を磨くトレーニングだ。
研修では事務所のホワイトボードや机の上など、さまざまな改善点を探し、事務所の何げない様子から顧客の業務負荷を予想。課題を解決する。
「知識として覚えたつもりでも、とっさには出てこない。VR空間に環境を再現して着眼点に気が付き、提案ができるか試す。実地研修ができなくてもVRなら定量的に提案力を評価できる」と中島社長は説明する。VRの事務所にギミック(仕掛け)を配置し、600程度のシナリオを作り込んだ。物流会社は幹部候補生の研修に利用する。
フランチャイズの小売店や飲食店、製造業の工場などを巡るサービスマンの提案力は企業の売り上げに直結する。これまでは模擬店舗などを作ってロールプレーイングで提案力を評価することが多かった。コロナ禍で人が集まれなくなりリモートでの研修が広がっている。
ビル点検360度、矢印で解説
「顧客の建物設備会社では、現場の技術者が仕事の合間に2週間で教材を制作した」とポケット・クエリーズ(東京都新宿区)の福田仁史ビジネスプロデューサーは胸を張る。同社はユーザーが自身でコンテンツを作れるVR制作システム「iVoRi360トレーニング」を提供する。ビルの設備点検の研修に採用された。設備のある天井裏には物理的にも人を集めることができなかった。
コンテンツ制作は現場を360度カメラで撮影し、そこに矢印や解説などのアイコンを足す。ライセンス料は300万円(消費税抜き)で年間30万円(同)の保守費用がかかる。HMDがなくてもタブレット端末などで空間を共有して指導できる。ユーザー自身がコンテンツを作ればコストを抑えられる。
部門・グループ訓練 全社活用を前提、コンテンツ制作
コロナ禍では社内の研修だけでなく、販売代理店や協力会社などのトレーニングの遠隔化が求められた。工場での作業を教える場合、人を集めて生産ラインを止めなくてもVRの中で教えられる。東京技術協会(東京都港区)の鈴木将人社長は「コロナ禍で提案してきたVRの商談が動きだしている。今後は設計と営業やグループ会社など、部門を超えた活用が重要になる」とみる。
同社は技術マニュアルを制作してきた。VRはテキストや動画などを含めた、教材の一部の位置づけだ。VRありきではない効果的な使い方を追求してきた。高崎正興マーケティング部長は「一部門の試みでなく、全社活用を前提とするVR制作が増えてきた」と説明する。
製造業の場合、CADで3Dモデルを作るのは設計部門、社外にマニュアルを配り製品を拡販するのは営業部門、製品を保守するのはアフターサービス部門と分かれている。VRを使う目的も予算もバラバラだと無駄が増える。
鈴木社長は「VRでの設計や製造の確認と、営業、サポートではそれぞれ予算の桁が変わる。コロナ禍での遠隔営業、遠隔保守、遠隔人材育成を前提に3Dモデルを活用すべきだ」と指摘する。VRコンテンツは3Dモデルを入れ替えてコンテンツを更新するなど長く使う工夫が必要だった。全社一体型のVRコンテンツを作り、上手に活用すれば設計から販売、保守まで素早く展開できる。
360Channelの中島社長は「端末の価格が下がり、コンテンツがリッチになる。VRの教育効果は大きい」と断言する。コロナ禍では海外を含めて、限られた人手を遠隔で即戦力化することが求められている。VRはサービスの質を支える技術になるか注目される。