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「金属」「建機」の株式売却へ、“巨艦・日立”解体も多難な道のり

「金属」「建機」の株式売却へ、“巨艦・日立”解体も多難な道のり

上場子会社のトップと世界で事業を伸ばすための議論をしている…と東原社長

新常態時代を勝ち抜く 社会変革軸に選択と集中

日立製作所は創業110周年の節目にグループ再編の最終局面に入った。残る上場子会社の日立金属と日立建機の株式売却を準備し、2006年時点で上場子会社が22社もあった“巨艦”の解体作業を進める。米中覇権争いや新型コロナウイルス流行がもたらすニューノーマル(新常態)時代を勝ち抜くため、社会イノベーション事業を軸に選択と集中を断行。日立は今、創業以来の歴史的転換点に立つ。(編集委員・鈴木岳志、同・山中久仁昭、同・嶋田歩)

汎用品・低収益事業を整理 IoT基盤と親和性評価

日立製作所の東原敏昭社長はグループ再編について「上場子会社のトップと世界で事業を伸ばしていくためにどうすれば良いかを議論している」と常々語っていた。09年に会長兼社長に就いた川村隆氏から始まった一連の構造改革は中西宏明会長を経て総仕上げの段階に至る。28日の決算会見に出席した河村芳彦執行役専務は上場子会社の扱いについて「21年度までの現中期経営計画期間中に方向性、あるいは最終形まできちんとした対応をしたい。予断を持たずにあらゆる選択肢を検討している」と言葉少なだったが、2社の株式売却は既定路線とみられる。

「12年以降、事業の入れ替えを徹底的に行った。コモディティー(汎用品)化する事業や低収益の事業はやめてきた」(東原社長)と選択と集中を加速した。コモディティー化と低収益のキーワードは日立金属と日立建機の両方に当てはまる。21年度までの現中計で掲げた営業利益率10%超の目標の足を引っ張る事業には厳しく臨まざるを得ない。それがたとえ“御三家”であってもだ。

また、日立製作所の社会イノベーション事業を支えるIoT(モノのインターネット)共通基盤「ルマーダ」との親和性も評価基準の一つだ。完全子会社化した旧日立ハイテクノロジーズ(現日立ハイテク)は、独自の計測・分析技術がルマーダ強化に必要だと判断された。ただ、ルマーダ強化の観点で言えば、日立建機も遠隔監視や自動運転技術などで有望に見える。同社について一定の株式を保有し続ける見込み。

上場子会社の問題はけりがつきそうだが、新たな課題も浮上する。日立製作所は自動車部品子会社の日立オートモティブシステムズとホンダ系サプライヤー3社を21年2月までに経営統合させる。統合新会社へ過半出資する予定の日立製作所は世界のメガサプライヤーとの競争に加えて、新型コロナ感染拡大により冷え込む自動車市場の難局を乗り越えなければならない。

日立製作所も最終的に車部品統合会社を売却する方針とみられるが、まずは構造改革で買い手にとって魅力的な会社へ生まれ変わらせる必要がある。かつての巨艦は一難去ってまた一難だ。

日立金属 収益基盤の立て直しが最重要

コロナ禍による業績悪化と、検査不正からの信頼回復の途上にある日立金属。27日に“再設定”した中期経営計画は、23年3月期に売上高8700億円(20年3月期は8814億円)、日立グループ固有の指標である調整後営業利益で700億円(同144億円)と果敢な目標を掲げた。

その前提には、早期退職1030人を含む国内外計3230人の削減や遊休資産売却、不採算事業の撤退、拠点統廃合など改革の断行がある。西山光秋会長兼社長は「コロナ収束後も受注環境の改善には時間がかかる。収益基盤の立て直しなどが最重要」と訴えた。13年に日立電線を吸収合併し、業容は特殊鋼から素形材、磁性材料、電線材料まで広がった。100年を超す歴史を持つ高級特殊鋼「ヤスキハガネ」や、医療機器用の多心極細同軸ケーブルなど独創製品が少なくない。ただ、業績は自動車、航空機、産業機械など主要顧客の生産に左右されがちだ。

西山氏が4月、日立製作所の執行役専務から転じたことで「売却は既定路線」(関係者)との指摘がある。会長就任後、磁石製品などの検査不正が公表された。外部識者でなる特別調査委員会は12月に最終報告書をまとめる予定。中計では「持続可能な社会を支える高機能材料会社」を目指すとするが、持続可能な事業体への改革こそが企業価値の向上そのものと言える。

日立建機 バリューチェーン事業を深化

日立建機は、新型コロナ感染拡大による市況悪化を受けて建設機械の新車販売が落ち込んでいる。20年4―9月期連結決算は、売上高が前年同期比24.9%減の3609億円、当期利益が同99.2%減の2億円。

日立建機は来年度、建機の自律運転に向けた実証を予定

中国の売上高は同2%減と微減だったが、北米が同48%減、欧州が同39%減、アジアが同48%減と低迷。油圧ショベルの世界需要は5月予想より持ち直すものの、単価の高い鉱山機械の需要減が足を引っ張る。

こうした中、日立建機は工場再編など構造改革の推進、中古やレンタルなど新車販売以外のバリューチェーン事業の深化、IoT化推進などで難局を乗り切ろうとしている。

構造改革ではミニショベルのオランダ工場を21年末に閉鎖予定で、国内工場も再編・効率化を進める。IoTでは建機の自律運転や機能拡張を簡単に行えるシステムプラットフォーム「ZCORE」を8月に開発。今後、油圧ショベルや鉱山ダンプなどに展開する。

日立製作所による株売却について平野耕太郎社長は「建機事業をより強くすることと、業績を上げることが第一だ」と語り、業績向上策の推進に力を注ぐ。


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日刊工業新聞2020年10月29日

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