“製造業DXの象徴”へ、大手3社が共同出資会社を設立
クラウド基盤活用 サービス新事業目指す
ファナック、富士通、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)が11月に共同出資会社を設立する。製造業のデジタル変革(DX)を実現するプラットフォーム(基盤)を提供するのが狙いだ。さまざまな企業が製造業のDXを実現するサービスを展開してきたが、新会社は中堅・中小を含めた「製造業全体のデジタル化」を掲げて差別化する。大手3社が連携することで、ユーザーが個社でIT基盤を所有しなくてもデジタルの力を利用できる世界を構築する。(川口拓洋)
新会社「DUCNET(ディーユーシーネット)」は製造業のデジタル化を支援するクラウド基盤「デジタルユーティリティクラウド」を提供する。サービス提供は2021年4月を予定。3年以内に売上高20億―25億円、300社の利用を目指す。富士通COLMINA事業本部戦略企画統括部シニアディレクターでDUCNET社長に就く田中隆之氏は「工場現場のDXは進んでおらず、喫緊の課題。中堅・中小1社のシステム投資には限界がある。このサービスで業界全体のデジタル化を実現する」と設立趣旨を強調する。
デジタルユーティリティクラウドは三つの事業を展開する。「プラットフォーム提供事業」では、クラウド上に各企業が独立して利用できる環境「テナント」を用意する。「シェアードサービス事業」では人工知能(AI)による情報分析機能などを提供し、データの活用や共有を支援する。「eコマース(電子商取引)事業」では利用企業が自社で開発したサービスを販売・決済できる。
【顧客体験で知見】新サービスの最初の利用者となるのがファナックだ。斉藤裕副社長は「これまでコンピューター数値制御(CNC)装置を含め、製品を販売するビジネスで成長してきた。これからはデジタルを活用したサービスビジネスを展開する」と話す。
ファナックは3事業の開発に携わるだけでなく、21年4月からサービスを使い始める。テナントには製品に関する知見などをデジタル化してためるほか、シェアードサービスでAIによるマニュアル検索などを行う。またeコマースを活用した自社サービス販売も予定する。
斉藤副社長は「デジタル時代はユーザーエクスペリエンス(顧客体験)の向上が大事。ファナック単独では難しかった。データ活用にはクラウドが必要で、ファーストユーザーとしての知見を業界に提供したい」と意気込む。
3年後に300社の利用を目指すが、将来は1000社の活用を見据える。ネットワークとインフラ基盤を提供するNTTコムの西川英孝取締役は「データと所有者をひも付けることで安心・安全にデータを流通させる」と説明。富士通の藤原克己理事は「製造業に明かりをともす灯台の役割を果たしたい」と力を込める。
機械メーカーだけでなく、販売する商社や利用するユーザー、サービスを運用するITベンダーが相互に連携し、巨大なエコシステム(協業の生態系)を形成する基盤を実現できるか。“製造業DXの象徴”へ向けた事業が始まった。