「システムの安全神話」が根強い日本、東証停止に学ぶ教訓とは?
東京証券取引所で1日に生じたシステム障害は全銘柄売買の終日停止という異例の事態となった。原因となったハードウエア部分を入れ替えるなどの対策を講じて、2日から通常通りに売買が再開したものの、「ネバーストップ」を看板とする市場の安定運営に大きな影を落とした。ハイテク競争は金融産業に限った話ではなく、システム障害は製造業などあらゆる業界にとって対岸の火事ではない。(編集委員・斉藤実)
証券取引のような大規模システムはハードとソフトウエアの関係性が複雑。トラブル時に1カ所修正しただけで全体に影響が及ぶケースがあるが、それを予測するのは難しい。
一般的にディスクなどのハードは劣化などで壊れるのが前提で、そのために保守サポートがある。だが、機能拡張を伴うシステム更新を繰り返す中で、建物で言えば「増築」部分が増え、システム全体の関係性が見えにくくなるのが常だ。
ハイテク競争は金融産業に限ったことではなく、製造業などあらゆる産業がデジタル変革(DX)の真っただ中にある。
東証のシステム障害の明確な原因はまだ不明だが、システム障害リスクは製造や物流などを含め社会インフラ全般が内包する課題だ。
障害が起きても被害を最小化するのが、ITベンダーの腕の見せ所だが、「障害は100%なくすことはできない」(業界関係者)のが現実だ。さらにはサイバー攻撃対策も仕掛ける側とのいたちごっこといえ、リスクゼロは困難だ。
日本は「システムの安全神話」が根強く、過剰に反応する傾向がある。東証のシステム障害をめぐり東証やベンダーである富士通の責任問題に終始するのではなく、これを教訓として、システムが内包するリスクを社会全体として再認識し対策を打っていく機会とする必要がある。
2日再開、ほぼ影響見られずも…金融庁、原因究明・再発防止求める
東京証券取引所は、システム障害で1日終日停止した全銘柄の売買取引を2日再開した。同日の日経平均株価終値は前営業日終値(9月30日終値を1日終値と設定)比155円22銭安。
午後に米トランプ大統領の新型コロナウイルス陽性の発表を受け下落に転じており、システム障害に伴うマイナスの影響はほとんどなかったとの見方もある。
海外取引所でもシステムトラブルはしばしば起きる。SMBC日興証券の太田千尋投資情報部部長は海外投資家の受け止めについて「それほどネガティブではない。投資家がシステム障害を念頭において対応しないほうが問題だとされる。東証は今回は“イエローカード”レベルではないか」と分析した。
一方、今回のシステム障害について、加藤勝信官房長官は会見で「日本取引所グループ(JPX)および東証で原因究明、再発防止を行い、金融庁で検証をしっかり行う必要がある」と強調。金融庁は同日、東証とJPXに対し、金融商品取引法に基づく報告を命じた。