ニュースイッチ

話題の「ワーケーション」、働き方改革と地方活性化を両立するか?

活動のヒント SDGsアクション #4 活動のレベルアップ:ワーケーション
話題の「ワーケーション」、働き方改革と地方活性化を両立するか?

(写真:三菱地所提供)

ターゲット8.9
2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する

<ケーススタディ>ワーケーションを検討しよう

新型コロナウイルスの大流行をきっかけに、テレワークによる在宅勤務を初体験した人も多いと思う。まだ不慣れという人が少なくない中で、カルビーは2020年7月1日から在宅勤務を標準にした。東京都千代田区の本社などオフィス勤務者800人が対象だ。
 同社は2017年から日数を制限せずにテレワークを導入していた。新型コロナ感染対策として2020年3月から原則在宅勤務としていたが、そのまま7月以降は「会社に行かないこと」を標準とした。出社するのは創造性や効率性の向上、直接の意思疎通が必要な場合。フレックス勤務のコアタイムを廃止し、柔軟な働き方も推進する。出社率は30%前後が目安という。また、テレワークで業務に支障がなければ単身赴任も解除する。コロナ禍が契機となった「思い切った働き方改革」の好例だろう。(カルビー2020年6月25日リリース)。

地方への移住も話題となった。人口の多い都市部は新型コロナ感染者も多かった。通勤電車、オフィス、エレベーター、昼食や懇親会など都市には人の密集する場が多く、感染リスクが高い。テレワークによる在宅勤務ができるなら、都市から離れた場所に生活基盤を移したいと考える人が増えているようだ。感染症対策がきっかけとなり、結果的に地方移住者が増えるとターゲット8.9や12.bにある「地方振興」に貢献できる。

コロナ禍が契機となった「働き方改革」として、「ワーケーション」も注目されるようになった。
 このワーケーションとは「work(働く)」と「vacation(休暇)」を合わせた造語だ。リゾート地などの自然環境の良い場所で、休暇を兼ねながらテレワークをする労働形態をいう。完全な休暇ではないが、テレワークによる仕事の合間に余暇気分を楽しめる。心身ともリフレッシュしながら仕事ができそうだ。
 新型コロナによって訪日外国人が激減し、地方の観光地は苦境に立たされている。新型コロナ感染対策と働き方改革を兼ね、都市部の企業がワーケーションを実践するとターゲット「地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業」に貢献できる。

先行して取り組んできた企業もある。JALは2017年7月12日、「ワーケーションなど新たな働き方に取り組みます」というリリースを発表している。期間は7、8月の2カ月で、子どもの夏休みや帰省の季節に合わせた実施によって社員の旅行の機会を増やし、家族と過ごす時間も確保しやすくする。また、地方のイベントへの参加で地域活性化の一助にもなるとしている。
 また、三菱地所は2019年5月から和歌山県白浜町、2020年7月から長野県軽井沢町でワーケーション用オフィスを提供している。東京・丸の内を中心とした同社のオフィスビルの入居企業などに利用してもらう。入居企業の従業員の働き方改革と同時に、地域の活性化にも貢献する。これは「ワーケーション関連ビジネス」と言えそうだ。

三菱地所の長野県軽井沢町のワーケーション用オフィス「WORK × ation Site(ワーケーションサイト)軽井沢」(三菱地所提供)
 行政も支援している。2019年11月には65自治体が参加してワーケーション自治体協議会が発足した。また、環境省は全国34カ所の国立公園でのワーケーションを企業に呼びかけている。公園内に宿泊施設がある立地を生かした試みだ。2020年度補正予算で宿泊施設へのWi-Fiなどのネット環境整備を後押しする。

ワーケーション(働く+休暇)で働き方改革と地方の観光に貢献

観光気分での仕事は心身への負担が少なそうだ。長期出張なのかもしれないが、宿泊する土地の良さを理解できる。家族も喜んでくれる。同僚と行けばチームワークが深まったり、新しいアイデアが生まれたりするだろう。学生の合宿に近いのかもしれない。文豪が温泉地に長く滞在したのも、リフレッシュと執筆への集中の両方のメリットがあったからだろう。
 企業はワーケケーションを制度化することで、ゴール8の重要テーマである「働きがいのある人間らしい雇用」を従業員に提供できる。同時にターゲットにある「地域振興、持続可能な観光業」にも貢献できる。地方の企業も、ワーケーションでやってきた大企業との連携が生まれる可能性がある。もしくはオフィスの貸し出しで新たな利益を創出できる。新型コロナ感染対策がきっかけかもしれないが、ワーケーションをSDGsの推進や新規ビジネスのチャンスにできそうだ。
(「SDGsアクション <ターゲット実践>インプットからアウトプットまで」より一部抜粋)

新刊の紹介

書名:SDGsアクション <ターゲット実践>インプットからアウトプットまで
 著者名:日刊工業新聞社 編、松木喬・松本麻木乃 著
 A5判、304頁、2,420円

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<書籍紹介>
国連加盟国によって採択されたSDGsは、17の目標と169のターゲットで構成されている。本書では、日本企業が取り組みやすいターゲットを取り上げ、企業が実践しやすい具体的な活動を、ターゲットごとに整理。企業規模、産業分野などの垣根を越え、70以上のケーススタディを紹介する。
他社が実際に行っている活動から、SDGsを推進したい企業関係者に具体的なSDGsの取り組みのヒントを与える。

松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
取材の短期出張でも、現地の人と「同じ釜の飯を食う仲間」意識が生まれます。入社後の新入社員研修で同期の絆が生まれると聞きます。 ワーケーションになると、チームワークが深まりそうです。本書にも書きましたが、地域側が率先してワーケーションを受け入れると、都市と地元企業との連携が生まれ、取引に発展するのではないでしょうか。

特集・連載情報

活動のヒント SDGsアクション
活動のヒント SDGsアクション
2030年を期限とする持続可能な開発目標(SDGs)が試練を迎えている。新型コロナウイルス禍で政府は目先の景気対策を優先し、企業もSDGsは後手に回りがちだ。しかし、海外に目を転じると、欧州連合(EU)は環境と紐づけた景気対策「グリーン・リカバリー」に大きく舵を切り、SDGsで世界をリードしようと動く。

編集部のおすすめ