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「近大マグロ」だけじゃない! 攻めの改革で挑む近大の異色の経営戦略

「近大マグロ」だけじゃない! 攻めの改革で挑む近大の異色の経営戦略

近畿大学経営戦略本部長・世耕石弘氏

少子化や大学淘汰(とうた)の進む中、近畿大学が志願者と産業界の人気をつかんでいる。世界初の完全養殖に成功した「近大マグロ」の巧みな広報戦略や実学重視の産学連携、国際学部新設などが奏功してきた。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大で多くの大学と同様に前期はキャンパスで講義できず、12日に再開した後期も手探りが続く。大学間競争を勝ち抜こうとする異色の経営戦略の真価が、これから試される。(東大阪支局長・田井茂)

「近大マグロ」から全国区へ/オンライン講義で教育改革

ブランドのシンボルである「近大マグロ」の商品化から、生活雑貨、インテリアなど、産学連携によって多彩な商品を送り出してきた

8月3日、近大はマグロやマダイ、シマアジの養殖料理店をJR東京駅の商業施設「グランスタ東京」にオープンした。近大の稚魚を販売先の養殖会社が育てたもので、行列ができるほどにぎわう。研究成果と「近大ブランド」を首都圏でも一段と発信している。

近大直営の養殖料理店としては3店目。2013年にJR大阪駅に隣接する商業施設で1号店を開き、同年に東京・銀座にも2店目をオープン。近大マグロは大阪から全国区となり、大学の知名度が一気に高まった。

東大阪キャンパスのアカデミックシアターは私語も議論も自由(図書スペース)

マグロの巨大な頭と、早稲田大学慶応義塾大学と近大をひとくくりにした「早慶近」のフレーズを印刷した奇抜な勧誘ポスター、インターネットに限る願書の受け付け、ネットによる話題の拡散など、斬新(ざんしん)な手法を次々と打ち出し、ブランド力を高めてきた。 一方で、文系から理系、医学・薬学、農学、文芸学など14学部を擁し、西日本の多地域にキャンパスを置くマンモス大として多様なニーズも取り込む。特に16年に開設した国際学部は1学年500人に上り、人気が高い。全学生が米国をはじめ海外に1年間留学する。20年に一期生が卒業し、総合商社や航空業界など“花形”の企業に就職先を増やした。

だが、新型コロナは近大にも影を落とす。留学生は期間途中を含め帰国させ、次の対象者も留学を延期した。国内では前期、学生に自宅学習を指示せざるを得なかった。

多くの大学でコロナ禍の影響が尾を引く中、近大が取り組むのがオンライン化だ。近大の世耕石弘経営戦略本部長は「近大は1960年から通信教育部で4年制の法学部を設けている。関西の大手私大では近大にしかないオンライン講義のコンテンツやノウハウを生かす」と、コロナ後の教育改革の方針を明かす。後期からは対面のゼミや座学などをキャンパスで再開したが、オンラインも併用し、大学に来る学生を減らす。

コンテンツはいつでもどこでも学べるように改める。キャンパスは学生同士による討論や発表、社会問題の解決、研究などの能力を高める場にする。コンテンツとオンライン環境の質を高め、学生が選択しやすい教育サービスを目指す。

近大の強さの“象徴”である入学志願者の確保も、キャンパスに志願者の見学に呼べるのは早くても21年3月。オンライン講義と同様、デジタル技術による志願者獲得へ転換を図る。

産学連携、成果は続々…社会に還元、追い求める

大学改革を進める中でも、産学連携を拡充する方針は変わらない。近大は民間からの受託研究件数が17年度325件で全国トップ。産業界から大学に対する研究成果と人材の供給ニーズは強まり、その成否も大学間競争を左右する。近大の特徴は、訴求力の強い水産技術や大手企業とだけでなく、最大の東大阪キャンパス(大阪府東大阪市)を中心に、多様な研究で中小企業との連携に取り組む実践にある。

ブランドのシンボルである「近大マグロ」の商品化から、生活雑貨、インテリアなど、産学連携によって多彩な商品を送り出してきた(例1 トイレットペーパー)

ゴム・福祉関連製品を手がける錦城護謨(大阪府八尾市、太田泰造社長)は、近大と共同で、通行の妨げにならない視覚障がい者用の施設内用歩行誘導床材の実用化に取り組んでいる。太田社長は「近大は研究の領域が広く的確な研究者を紹介してくれる。学生目線による使い勝手の評価やデータも、企業単独では得られない。次は近大の付属病院で実証を始める」と、協業の進展に満足な様子だ。

同じく例2 インスタントラーメン

20年はこれまでにインテリア、せっけん、調理器具をそれぞれ製造する大阪府東部地域の中小と、学生の発想を生かした商品も共同開発した。

同じく例3 組み立て式テント

学生や産業界から手に届きやすく、社会に還元できる教育を今後も追い求める。

インタビュー/近畿大学経営戦略本部長・世耕石弘氏
「“困ったら頼れる近大”に」

近大で情報発信や経営のビジョン作りを仕掛ける世耕石弘経営戦略本部長に聞いた。

―新型コロナは21年の入学志願者に影響を与えそうです。

「大学に来て学生生活を体験してもらうオープンキャンパスを開けないのは痛い。地方から親子で来て、大学も1人暮らしの環境も知ってもらうことができない。ネットで分かりやすく伝えるしかない。国内の大学があまり力を入れてこなかったデジタル技術による志願者獲得のマーケティングへ、シフトする必要がある」

―14年度からは連続で志願者数全国1位を達成してきました。

「来てもらいたい学力水準の志願者の頭にパッと近大が浮かび、選択肢に入れてもらえるようになった。関東や東海からも増えている。親元を離れたい学生がネットで検索すると近大が引っかかり、学びたい学部もあるからと受験に来る。学部と学科が多く就職先は幅広い。入学後に進路を考える就職活動もしっかり支援している」

異色の経営戦略でブランド力を高めてきた近大(東大阪キャンパス)
―国際学部も人気を呼んでいます。

「留学を売りにする大学でも一定の要件をクリアしないと、志願者は本当に留学できるか分からず不安だという。しかし近大は確実に行ける。米ベルリッツコーポレーションと提携し、米国などの現地でもサポートする。毎年500人もの学生が留学し、得難い体験をする。キャンパスに国際化への前向きな考えが広がる」

―25年に迎える創立100周年の姿は。

「革新を続け、世の中の役に立ちたい。中小をはじめ産業界からは、近大は次に何をしてくれるのか、困りごとがあれば近大に、と頼りにされたい」

日刊工業新聞2020年9月22日

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