Amazon流で新規事業を作りませんか。出身女性3人が日本企業の変革に挑む
「All Hands(オールハンズ)」。米アマゾン・ドット・コムによる社内会議の名称だ。社員みなが参加し、アマゾンのビジネスについて考える。誰もが質問や発言ができる機会だという。この会議名を由来にした新会社「aLLHANz」(オールハンズ、東京都港区)をアマゾンジャパンの黎明期から成長期を支えた太田理加さん、小西みさをさん、白川久美さんの女性メンバー3人が立ち上げた。
アマゾンで培った経験や知見を生かして企業の新規ビジネスの創出などに伴走する。経営者との対話やワークショップなどを通して、アマゾンのビジネスに対する考え方や取り組み方などを顧客企業に根付かせることで人材や組織といった経営資源を最大化し、持続的な成長へ自走できるよう中長期的に支援する。
「誰もが実行可能な枠組みで、それによる人や組織の成長を目の当たりにしたからこそ日本の企業にも広めたい」とオールハンズが考えるアマゾン流のビジネス創出方法とは-。(取材・葭本隆太)
『顧客主義』『長期視点』『リーダーシップ理念』
「顧客が本当に求めているビジネスですか」「自社がやらなければならないという強い意思を持っていますか」-。オンライン会議システムを通した対話で顧客企業の経営陣にそう問いかける。6月に始まった電子商取引(EC)サイト運営会社とのミーティングだ。顧客企業はこれまで特定の業界の商品を扱うEC一つで事業展開してきたが、企業としての安定性を高めるため、もう一つの柱を立ち上げたいと考えた。オールハンズはその新規ビジネスの創出に伴走する。
太田 理加/日本石油などを経て02年アマゾンジャパン入社。新規ビジネス立案・立ち上げを担当後、ヘルス&ビューティーなどの事業責任者歴任。15年に退社後、日本初定額制ジュエリーレンタルサービス「スパークルボックス」設立、代表就任。
これまでのミーティングでは、その顧客企業の経営資源を生かせると見込む別業界向けECの立ち上げを提案した。ただ、そうした提案以上にオールハンズがまず重視するのは、ビジネス創出の土台となる意識の改革だ。そこにアマゾン流のビジネス創出の肝がある。
「(アマゾンジャパンに在籍していたときは)アマゾンに根付く『顧客主義』『長期視点』『リーダーシップ・プリンシパル(理念)』といった(事業や組織に対する)考え方の素晴らしさを感じていました。それを日本企業に定着させられるよう支援していきます」(太田さん)。
アマゾンは企業理念に「地球上で最もお客様を大切にする企業を目指す」を掲げ、顧客主義を徹底している。例えば、新規事業を検討する際に競合の話は御法度で、あくまで顧客が必要とするか否かが問われる。一方、「リーダーシップ理念」とは、役職者だけでなく、新入社員や中途入社したばかりの社員まで誰もがリーダーとして行動できるようにする行動規範のこと。例えば、その項目の一つである「オーナーシップ」ではこう指摘する。
「リーダーにはオーナーシップが必要です。リーダーは長期的な視点で考え、短期的な結果のために、長期的な価値を犠牲にしたりしません。リーダーは自分のチームだけでなく、会社全体のために行動します。リーダーは『それは私の仕事ではありません』とは決して口にしません」
オールハンズでは、こうしたアマゾン流の考え方が根付くように助言や観察をしながら新規ビジネスの開発や既存ビジネスの磨き上げなどに伴走していく。具体的な流れとしてはまず、経営者と面談し、現状の課題や経営資源を洗い出した上で取り組む内容を決める。その上で、新規ビジネス創出の場合は計画から立ち上げ、運営までを総合的にサポートする。新規ビジネスの立ち上げ前に顧客企業のプロジェクトメンバー全員参加によるセミナーを通してビジネスの作り方をトレーニングするほか、運営開始後はPDCAを中長期的に支援する。
「私たちはプランを練り上げて終わりではなく、プランを実行してそれが自走する水準まで支援していきます。また、立ち上げたビジネスに我々が出資したり、顧客企業とジョイント・ベンチャー(JV)を立ち上げたりすることも視野に入れています。一般的な経営コンサルのように決して顧客の対岸に立ちません」(白川さん)
また、事業の計画時やPDCAを回す際にはKPIの設定を重要視する。
「日本企業はKPIとして売り上げや利益などの『アウトプットKPI』を設定し、あと(の具体的な行動)は現場に丸投げするケースがありますが、それだけでは現場は動けません。アウトプットのKPIにつながるような(営業件数や品揃えの数といった)具体的な行動を示す『インプットKPI』をなるべく早く見つけて設定する必要がありますし、KPIは事業の展開によって変化します。正しいKPIでPDCAが回るように後押ししていきます」(太田さん)
小西 みさを/ソフトバンクやセガなどを経て03年にアマゾンジャパンの広報責任者に就任。アマゾンをブランディングした。17年にPR戦略・活動のサポートやコンサルティングを行う「AStory」を設立、代表就任。
顧客対象は規模や業種は問わないが、中長期視点で考えられる経営者を想定する。
「目先の売り上げを目指すとしっかりした利益は得られません。(私たちの思いとしては)社会や顧客に支持されるビジネスをサポートしたいと考えています」(小西さん)
それぞれの実績・知見を持ち合う
オールハンズの3人はアマゾンジャパンにおける各部門のリーダーとして黎明期から成長期を支えた。小西さんはPR、太田さんは新規事業、白川さんはロジスティクスだ。アマゾンジャパン退職後はそれぞれ専門分野に関わるコンサルティングなどを行っていた。ただ、例えばロジスティックス部門だけ、PR部門だけを改善してもなかなか効果が得られない課題に直面したという。
白川 久美/外資系IT企業をはじめ、リテール・エンタメ・アパレルなどの新規事業や日本進出時のスターティングメンバーとして従事。16社で経験後に17年に起業。主にロジスティクスやSCMのコンサルを行う。
「どれだけオペレーションの仕組みをしっかり作ってもプロダクトやマーケティングが駄目ではうまく回らず、新規事業が頓挫するケースを何度も見てきました」(白川さん)。
「PRはすでにできあがった製品やサービスを“調理”するように言われますが、それではなかなか社会と調和がとれません。『商品を作る理由』や『商品が社会に提供できるもの』といったPRの視点を事業開発に取り入れることで、よりよい成果につながる可能性が高いと感じていました」(小西さん)。
そこで、3人はそれぞれの強みをつなぎ合わせ、ビジネスの上流から下流までを一体的に支援できる体制を整えようと、オールハンズを立ち上げた。
現在は前出のEC運営企業の案件に対応するほか、複数のプロジェクトが動き出しそうな状況という。コロナ禍にあって変化に対応するための新規事業や組織の構築を急ぐ相談は多数あり、請け負う案件を検討している。GAFAの一角を占める巨大IT企業で培った経験や知見を携えて、日本企業を変革する挑戦が本格化しようとしている。