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活力みなぎる中国のニューリテール、アリババの消費体験から日本の小売りは何を学ぶ?

活力みなぎる中国のニューリテール、アリババの消費体験から日本の小売りは何を学ぶ?

アリババの「盒馬鮮生」はEC向け倉庫としても活用、注文に応じ店員が商品を袋に詰め天井のレーンに流す

近年、米国を中心にD2C(Direct To Consumer)という新たな小売りモデルが注目されている。会員制交流サイト(SNS)などの発信を通じ、ブランドの世界観を伝え、商品を自社の電子商取引(EC)サイトあるいは実店舗で、消費者へ直接販売するモデルである。

一方、中国の場合、ネットビジネスが発達するため、ECプラットフォーマーにはすでに膨大なデータが蓄積されている。消費のデジタル化の流れは、データとテクノロジーを駆使し、デジタルとリアル、さらには物流機能を融合する「ニューリテール」によって、より良いユーザー体験の実現を目指す方向に進んでいる。

ニューリテールは元々、アリババ創業者のジャック・マー氏が提唱したコンセプトである。彼は「近い将来、ニューリテールがECにとってかわる存在になる」と2016年の時点で予測している。

また、SNS大手のテンセントとEC大手の京東もリテールに関する新しい考えをそれぞれ発表している。言葉は異なるものの、デジタルとリアルを融合するという本質的な部分は変わらない。

その背景には、中国人消費者の行動変化がある。デジタル・リアルを問わず、消費体験を重視し、機能や品質の高いモノ・サービスを選ぶように変わってきている。

EC最大手のアリババをはじめとするプラットフォーマーやテックベンチャーは、そうした消費者の囲い込みを狙って、ニューリテールの取り組みを広げている。アリババが展開する次世代スーパーの「盒馬鮮生(フーマー)」は好事例としてよく取り上げられる。

店舗の場所選定から商品の入荷・在庫・配送まで、データに基づいて行われる。オンライン利用を促すために、店舗で飲食サービスの提供による消費者の満足度を高め、3キロメートル圏内なら30分以内の配達サービスを強化している。

さらに、フーマーの新たな形態を模索し、野菜市場を目指す「盒馬菜市」、郊外型店舗の「盒馬ミニ」とビジネスエリアに根差す「盒馬F2」を相次いでオープンしている。いずれもデジタルとリアルの融合がベースとなる。

中国ではニューリテールに取り組まない小売りは淘汰(とうた)されるといわれるほどだ。また、新型コロナウイルスの感染拡大があらゆるモノ・サービスのデジタル化をいっそう加速させている。こうしたダイナミックな変化を的確に捉えることは、日本の小売業界が進む今後の方向性の指針となるだろう。

(文=趙瑋琳<伊藤忠総研 産業調査センター主任研究員>)
日刊工業新聞2020年8月21日

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