中国メーカーとトラブル!どうすればいい?カギは「確かな情報伝達」
日本人設計者が中国メーカーに製造を依頼したときに発生しがちなトラブルの原因として、①中国人の国民性と,その国民性による仕事の仕方を理解していないこと、②本人の会話やメールなどでの情報の出し方が非常に曖昧であること、③設計者による中国の製造現場の確認が十分になされていないことの3つがあげられるという。本連載では,これら3つが原因となって発生したトラブルに関して,著者の経験に基づく実例をあげ,そこから得られた反省点とそれらの対策を紹介している。
部品作製中の訪問
前回は「不良発生時の部品メーカーへの訪問の仕方」についてお伝えした。今回はそれ以外の一般的な部品作製を進める中での訪問の注意事項,また打合せでの情報の伝え方や対応の仕方についてお伝えする。
金型を作製する部品の場合,この期間は短いもので1カ月半,一般的には3カ月程度であり,部品メーカーと最も多く情報を交わす期間である。この期間にいかに窓口となる日本語通訳の中国人に対して正確に情報を伝えられたか,そしていかに末端の実務担当者まで必要な情報を伝えられたかが,仕事の成否を分けると考える。
訪問前の事前確認部品メーカーを訪問して,限られた日程で決められた業務を確実にこなすには,事前準備がとても大切となる。訪問する目的は,これから依頼する部品の打合せや完成したばかりの部品の確認であったり,新規に治具や設備の作製を依頼した場合にはその確認であったりする。
まずは約束した日程だからといって,何の事前確認もなしに訪問することは避けたい。また,実務担当者との間に入っている日本語通訳や技術リーダーなどが,「準備ができている,問題ない」と言ったからといって,それ以外の確認を何もせず訪問することも避けたい。次の①は必須,できれば②までを確認してから訪問すべきである。
① 依頼した部品・治具・設備の写真を送ってもらう。② 依頼した部品・治具・設備が動作し,設計者が確認するに十分な機能を果たすことがわかる写真やデータを送ってもらう。
部品に関しては勘合部品などを事前に送っておく必要がある。筆者は中国駐在中に,日本語通訳に作製依頼した治具が完成していることを口頭で確認し,訪問することを電話で伝えて,次の日に部品メーカーを訪問してみると,確認すべき治具が存在しなかったことを経験した。
その原因は,日本語通訳が実務担当者に口頭で確認を行い,その返事をそのまま私に伝言ゲームのように伝えていたからだった。日本語通訳は過失を自分の確認不足にはせず,実務担当者が「問題ない,と言ったから」で済ませようとするのである。(図1)
明確に区分された業務範囲
中国人はあまり他人の業務範囲に入り込もうとはしない。日本では窓口になっている営業担当者にある依頼をすると,その営業担当者は実務担当者と頻繁にやりとりを行い,仕事の進捗具合を正確に把握している場合が多い。お互いに相手をケアしながら業務を進めているのである。
営業担当者は「あの金型は日程どおりに進んでいる?」と実務担当者に聞き,実務担当者は「予定より早くできそう」と返事をする。常にお互いにコミュニケーションをとりながら業務を進めているのが普通である。
しかし中国人はそうではないようだ。筆者がある部品の修正のために部品メーカーを訪問し,部品を確認した後にその問題点リストを作成して日本語通訳に渡した。その修正ができていることを確認するため,約1 カ月後に部品メーカーを訪問し,日本語通訳に「どの程度,修正が終わりましたか,全部終わりましたか?」と聞いた。するとその日本語通訳は,「担当者に問題点リストをメールで送った,その後は知らない,今から聞いてくる」と言うのであった。やり取りのイメージを図2 に示した。これは極端な例かもしれないが,おおよそこのような対応はよくあることである。よって訪問前の事前確認は怠ってならない。
部品修正の指示
部品修正の指示に関して,ここでは例として金型で作製した部品(1stトライ品)を確認して,その修正を依頼する場合をお伝えする。
まず部品の不具合箇所にマジックでマーキングをする。黒い部品はけっこう多いのでホワイトペン(細)を持参すると良い。それで形状の不具合箇所にマーキングし連番を振り,可能であれば不具合の内容を記載する。部品が小さくマーキングができない場合はその部品の図面のコピーを準備し,それに赤ペンでマーキングし連番を振り,不具合の内容を記載する。(図3)
部品にマーキングする場合は同じものを2 個作製すると良い。1個は自分のもので,もう1個は部品メーカーのものである。図面の場合は1 部コピーしてそれを部品メーカーに渡す。ここで忘れてはならないことは,部品にマーキングした場合は必ず写真を撮っておくことだ。理由は,必ずと言って良いほど部品メーカーに渡した部品は紛失してしまうからである。
筆者の記憶では,ほぼ100%なくなっていた。修正箇所の確認のために再度訪問するときに,マーキングした自分用の部品を持参することはない。荷物がかさばり,通関で面倒な書類を書く必要があるからだ。ちなみに図面のコピーも念のため写真を撮っておいた方が良い。
修正箇所の写真・番号・修正内容を記載した一覧表をつくり,担当者同席の打合せで日本語通訳を通してその内容を担当者に伝える。日本語通訳にだけ伝えるのは避けるべきである。
確実な情報伝達のできる話し方
第7 回で「計画的な業務の進め方」をお伝えしたが,今回はそれに関連し確実に情報を伝える話し方について,次の2つのポイントをお伝えする。
・一文章一内容にする
・回答を誘導する質問の仕方をしない
例えば「部品を外してビスを締め直してください」,これを日本語のできる中国人に言ったとしよう。この中国人が「締め直す」という言葉を理解できなかったとしたら,「はい,わかりました」と言いながらも,ビスを取り外した後に部品を外してそれで終わりになる。理解できる言葉は「部品を外す」と「ビス」だけとなるので,これらの2 つの言葉だけ理解して行動をとるためこのようになる。仕方のないことである。
流暢に英語を話す英語圏の人と話をすると,日本人は,あたかも理解しているかのように「Ohyes OK, OK」と連発するのと同じである。理解できた部分だけで返事するのだ。これに対して日本人は「ちゃんと説明したのに,やらないんだよ」と不平を言うことがあるが,理解できる文章で説明しない日本人に問題があるのだ。この文章は短いながらも,次の3 つの文章に置き換えることができる。
「ビスを外してください」(そして)「部品を取り外してください」(そしてまた)
「部品をビスで留めてください」
つまり確実に情報を伝えたければ,このように文章を分割して会話をすれば良いのだ。口に出して読んでいただきたい。文章を3 つに分けたからといって,決してまどろっこしい言い回しになるわけではない。このようにすると,相手の反応を見ることで,相手がどの言葉を理解できなかったかを確認しながら会話を進めることができ,確実に言いたいことを伝えられる。私たち日本人のちょっとした配慮で確実な会話ができるのである。
回答を誘導する質問の仕方をしない例えば「上から順にビス留めていますか?」と中国人に質問をしたとする。日本語のできる中国人でも「上から順に」を早口で言われてすぐ理解できる人は少ないと思う。そうなるとこれを聞いた中国人は「ビス留めていますか?」だけを理解して「はい,そうです」と回答する。「上から順に」が正しい回答でないことが後からわかった場合,日本人は「確かに『上から順に』って言ったはずだ」となる。
これも先の例と同じく,理解できた言葉だけで回答をするからである。質問される側にとっては,冒頭の「上から順に」がこの質問の重要なポイントであることなど知るよしもない。よって,聞き直すこともなく「はい,そうです」と返事をしてしまうが,これも仕方のないことだ。(図4)
この例の場合の適切な質問の仕方は,「ビスを留める順番を教えてください」である。答えを相手に考えてもらえば,質問の内容を理解してもらえているかを判断でき,また本人の口から出た真実の回答を得ることができる。一般的におしゃべりな人は,回答を誘導する質問の仕方をする場合が多い。注意すべきである。
やってはいけない「一任」
日本人の仕事の進め方の特徴として,相手企業への「一任」が多く見受けられる。相手企業との打合せにおいて「それは御社のやり方でお任せいたします」と言う。このように発言する一番の理由は,「私たちは要望した結果が得られれば,そちらの仕事の進め方や所有する設備などの都合に合わせてもらって良いです」という配慮があるからだ。
そしてその裏には「あうんの呼吸」や「以心伝心」もあり,「私の想定から大きく外れたことはしないだろう」という期待や,「こちらにはその知識はないので,結果を得るための手段(方法)はお任せします」というものもあるはずだ。
国民性が同じである日本人同士では,このような「一任」をすることで問題が起きることはないが,中国企業を相手にした「一任」はとても危険である。想定外の手段(方法)をとっていることがあり,悪い場合には欲しい結果が得られない可能性もある。
「一任」をしない仕事の進め方中国では,基本的に「一任」をしてはいけない。例えばある2 つの部品を締結する場合,依頼者側の欲しい結果は「○○Nで部品同士が外れないこと」であったとする。その部品メーカーには結合方法としてA,B,Cの3 種類があり,コストなどほかの要素は同じとする。そうした場合,たとえ依頼者側はA,B,Cのどの方法でも良いとしても,必ず「方法Aでお願いします」と言うことが大切だ。
もし,選択肢がその打合せの場にはなかった場合は,「どのような締結方法があり,それぞれのメリットとデメリットを教えてください」と依頼して,その中から依頼者側が自分の意思で選択をするのである。もちろん最初から締結方法の指定があれば,それを指定するのが最も良い。「A,B,Cのどれでも良いので一任します」は絶対にやってはならない。
よく,「手段(方法)まで指定すると,うまくいかなかったときに,こちらの責任になってしまいませんか?」と心配する人がいる。筆者は「一任」した方がよっぽどリスクが高いと考える。また,依頼者は結果のみを依頼するわけではなく,その結果に至る手段(方法)も依頼している意識と,可能な限りその手段(方法)に関する知識も持ち合わせる必要があると考える。
日本の部品メーカーは優秀である。だから依頼者側が手段(方法)の知識がなくても,「一任」することで品質の良い部品が出来上がってくるのであるが,中国ではそうはいかない。(機械設計2020年8月号より一部抜粋)
<著者>
ロジ 小田 淳(おだ あつし)
中国モノづくりの進め方コンサルタント。ソニーに29 年間在籍し,プロジェクターなど合計15 モデルを製品化。駐在を含む7 年間,中国でモノづくりを行う。中国での不良品や業務上のトラブルの発生原因が日本人にもあることに気付き,それらの具体的な対処方法を研修やコンサルで伝える。
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