ビジネス利用が約7割の東海道新幹線、「競争相手は新型コロナではなく航空機」の理由
JR東海の東海道新幹線は開業56年目の2020年に輸送力増強と新型車両の投入で、さらに進化する。足元では、新型コロナウイルスの影響による移動需要激減に見舞われ、バイパスとして建設中のリニア中央新幹線では工事の遅れが確定的となった。取り巻く環境は厳しくなるも日々“日本の大動脈”としての役割を果たし続ける。
18年度には過去最大の1日当たり47万7000人が利用した東海道新幹線。新型コロナによる緊急事態宣言下の4、5月輸送量は前年比9割減となった。未曽有の激減から徐々に回復しつつあるが、元通りにはほど遠い。
移動自粛が求められていた期間、ビジネスシーンではテレワークやウェブ会議の実用性が確認された。ある鉄道会社の首脳は「(アフターコロナは)ビジネスの移動が減るだろう」と危機感を抱く。
JR東海系広告代理店の資料によると東海道新幹線の出張・ビジネス利用は全体の68・3%、通勤や単身赴任者の帰省を含めると4分の3を占める。法人の動向が需要回復を左右しそうだ。JR東海の営業幹部は「新幹線の顧客は現場を持つ製造業が多い。時間はかかっても、いずれ元に戻る」と確信する。
金子慎社長は「リモートで済まない部分は大きい。わざわざ会いに行くのだから(動機になるよう)サービス水準の向上は課題だ」と指摘。3月のダイヤ改正で可能となった速達型「のぞみ」1時間最大12本運転と、7月1日に営業投入する13年ぶりの新型車「N700S」に期待する。
ともに、東海道新幹線の競争力向上を狙った施策。本命の競争相手は新型コロナではなく航空機だ。運行頻度や輸送力で新幹線は圧倒的に優位だが、出発地から目的地までの総移動時間の見合いで、東京からは大阪以遠で航空機にシェアが発生する。新幹線のシェアは東京―大阪で85%、東京―岡山、広島で約7割。料金、到着時分の短縮、サービスなどの細かい工夫の積み重ね、総合力の勝負だ。
ただ航空機との競合関係にも変化が現れつつある。年初にANAホールディングス(HD)の片野坂真哉社長は「鉄道との連携が課題となる」と話し、日本航空(JAL)の赤坂祐二社長も「国内公共交通の効率化を考えなければならない」との考えを示した。
2次交通とのスムーズな連携を意図したものではあるが、背景には短距離の移動に二酸化炭素(CO2)排出の多い航空利用を避ける環境配慮の世界的なムーブメントもある。JR東海は東京―大阪間の1座席当たりCO2排出量が航空機の12分の1だと訴求する。
一方、19年10月の台風19号で北陸新幹線が約2週間運休した時は航空が代替交通となった。国土強靱(きょうじん)化の観点から事業継続計画(BCP)も欠かせない。東海道新幹線では安定輸送のために、ハード対策や技術導入を進めてきた。災害への抜本的な対策として位置づけるのが大動脈の二重系化、リニア建設だ。