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挑戦しないで何が人生だ!“全裸監督”村西とおるの“狂熱”に迫る

全文公開 約1万字 ロングインタビュー
―ではますます、ご活躍されるのですね。『北の国から~』も発売が楽しみです。

知り合いの印刷屋の親父が92歳で死んだの。この親父は元帝国陸軍の軍曹で、どれだけの戦いをしてきたか分からない。体に銃弾の跡が3つも4つもあるけど、非常にテンションの高い親父だった。何かあると、「よし、そこで待ってろ」と言って2階に上がって日本刀を取ってきて俺を切りつけるみたいな(笑)、テンションの高いおじさんだった。そのくせ、俺のウラ本時代に発売前のウラ本を横流しなんかして、ろくでもなかった(笑)。「親父何やってんだ、とんでもないことするな」と文句を言うと、「なんだ」とシラを切るから、「発売3日前に横浜で売ってるじゃないか」と詰め寄ったら、「おまえね、年寄りをいじめるもんじゃないよ」とか言うタフな親父だったけど、92歳である日突然死んじゃった。

死ぬ2日前まで会ってたけど、頭脳は明晰で、タフな親父だった。私はこの親父を知ることによって、「人間というのは92歳でも現役でこれだけ頑張れるのか」と、何百億円にも匹敵するような財産をもらった。今でもこの親父が頭の中にいて、私は92歳を自分のマックスにしようと思っている。


「受け入れなきゃいけないものは受け入れろ」

―監督は心臓の病気で生死の境をさまよったこともあるそうですね。

ガキのころから神経質で臆病だったけど、1週間以内に死ぬ、手術しても50%の確率だと言われると、おかしくなって、うろうろして落ち着かなくなって死を直視できなかった。結果的には手術を受けて助かったけど、そのときは、その瞬間に死んでもおかしくなかった。どきどき、ハラハラして死を受け入れられず、さまよった。そのときに、エピクロスというギリシャの哲学者に出会った。エピクロスは「人間に死はない。人間で自分の死に出会った者はいない。人間に死はない。だから、ありもしないことに怯えてはいけない」と書いていた。死におびえることがいかにナンセンスかということが分かって、気を取り直した。ポジティブに生きることの根源的な考え方だと思う。

エロチシズムの仕事をしてきて、りっしんべんの「性」は自分で見てきたけど、生き死にに対峙するとうろたえてしまった。そういう経験をして初めて、「気にしても煩わしく思ってもしようがないことについては、考えない」という図太さをもらった。留置場に入っているときに前科15犯で「正義」という自分の名前が大嫌いだって言う男に会ったことがあるんだけど、「受け入れなきゃいけないものは受け入れろ」ということですよ。

―受け入れるという意味では、50億円もの借金を完済しています。『狂熱の日々』の撮影時はそうしたギリギリの状況でしたよね。

そこはもう火だるま状態ですよ。当時は電話1本で、「監督、10億ですか」と10秒もかからないで借りられた。だからマンションやビルを買ったりした。バブル経済が弾けて資産価値が7分の1くらいになってしまうと、どうしても借金ができちゃう。なんとか脱しようと思っていて、合法的に自己破産してもよかった。ヤミ金は自己破産させないが、銀行はすぐ自己破産させようとする。裁判所から「なんで自己破産しないのか」と聞かれたこともある。

ただ、私は世間に出て仕事をしていたから、自己破産すると誰にも相手にしてもらえなくなる。それから、保証人になってくれた男がいて、その男の家族もいた。彼を巻き込むといけないと思って自己破産しなかった。私は自己破産を否定しているのではなくて、合法的にできる人はしてもいいと思う。でも私の場合は状況が許さなかった。できたら、よっこいしょして、雲隠れしたい心境はあった。でも、「しようがない」とやり続けて、それを返済したら、気がつくと「逆境に強い男」とか言われるようになった。

俺は逆境には強くないよ、本当は4億でも5億でも欲しかった。それでも、板きれ1枚にしがみついて泳いでいるうちに、なにかそういう信用ができて、世間が評価してくれた。今回の『全裸監督』もNETFLIXで全世界に配信される。1億5千万人くらい会員がいて、のべ7億-8億人が見られることになる。制作費全体も年間1兆4千億円と、民放キー局が4年で使うくらいある。プロモーション費を6000億円使うような巨大モンスターが日本にやってきて、なんとか日本市場を攻略するコンテンツを作れないかと探していた。ヤクザとか壁ドンとかではなくて、民族や宗教を超える、日本発のものがあるだろうと探していると、「日本にこういう恥さらしがいる」ということになった。NETFLIXのCEOも、「こういうタブーの世界を描かないと金を出して視聴してもらえない」となった。どうでもいい食レポなんか誰が見るんだよ!

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